似太郎

人生劇場 飛車角と吉良常の似太郎のレビュー・感想・評価

人生劇場 飛車角と吉良常(1968年製作の映画)
4.9
何やら随分と辛辣なレビューが多いようだが、「一作目の『人生劇場・飛車角』と比べて明らかに劣る」とか「ヒロインのおとよのエピソードが盛り上がらない」だとかそんな偏見に満ちた愚昧な感想などこの際どうでもよい。

本作は内田吐夢が執念で作り上げた人間の「業=カルマ」をとことん追求した東映任侠映画史上に残る野心作であり、男と女の情念と怨嗟が炸裂した極めて格調高い、観賞後ズッシリした後味の残る稀代の名品となっている。

どうも内田吐夢作品は『飢餓海峡』といい『たそがれ酒場』といい、重苦しいカルマを背負った主人公が最終的に敗北するパターンが多く、そういった意味で「作家性の塊」みたいな所がある。任侠映画を撮ろうが時代劇を撮ろうが、内面下で煮えたぎる一種の(残酷性)が際立っている。吉良常を演じる辰巳柳太郎が本作に於けるキーパーソンであり、内田吐夢自身の投影とも思える。

常に登場人物の中に蠢く負の意識。灰汁というかヘドロというか、徹底して救いのない凄惨な人生。気軽には観ていられない。その暗澹たる雰囲気はアレクセイ・ゲルマン並みの「宇宙的視野」を感じさせる。これ程までに重く、壮絶極まりない生き様を映画によってぶち撒けられる監督は内田吐夢くらい。

やはり戦前(明治〜大正)の貧困から這い上がった監督のバックボーンが根底に流れている為か、映画を観終わった後の重量度は半端なものではない。とても通常の任侠映画とは思えない程のカルマ蠢く人間模様が凄まじいドラマツルギーとなり、一寸たりとも目の離せない出来栄えとなっている。かつてなく「とんでもないモノ」を観てしまった…という凄みを感じさせる正真正銘の傑作。
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