Jeffrey

エロス+虐殺のJeffreyのレビュー・感想・評価

エロス+虐殺(1970年製作の映画)
5.0
‪「エロス+虐殺 <ロングバージョン>」‬
‪冒頭、椅子に座る女。彼女に質問する女の声。シャワーに濡れる女。桜並木通りを歩く男女、セックス、長い廊下を歩く、警察署、新聞社、三つの死体、フィルムによる自死…本作は吉田喜重映画史上だけでは無く、ATG作品の中で最も優れ貴重な一本かつ私が初めて観た彼の作品でオールタイムベスト級に選出する程の傑出した映画だ。私を邦画の魅力に導いたのは他でも無く安部公房原作で勅使河原 宏監督の砂の女、他人の顔なのだが、このアートシアターギルドを知ったきっかけは吉田の本作、そして実相寺昭雄の無常、曼荼羅、哥と立て続けに観た遥か昔の話だ。ここからATGと言うアート映画を浴びる用に鑑賞し、日本国映画の素晴らしさ、ズバ抜けた才能を知り巨匠とされる黒澤、溝口、小津は勿論のこと、大島、黒木、新藤、岡本、寺山、市川、鈴木と名前を挙げたらキリがない偉大な映画の先人たちの作風を知った。本作は何より自分にとって特別な一本なのである。ところでだ、本来なら本作は三時間四十六分の規格外の政治と性愛を主題にした作品なんだが、当時本作の元になった左派社会党の神近市子がプライバシーの侵害だと騒ぎ立て、吉田が題材にした日蔭茶屋事件の本作はカットされ実質二時間四十七分にされた…一足早くにパリで公開され、このDVDにはほぼオリジナル版に近い三時間三十六分と十分短縮されてるが、その理由は失われたフィルムがあった為との事…映画ファンとして、吉田喜重ファンとしては非常に残念である。たかが十分されど十分なのである。さてこのあってないような物語をどう説明すれば良いか…難しい。まず冒頭から大混乱するのである。椅子に座る岡田茉莉子演じる伊藤野枝に対して女子大生がインタビューする。あなたは…と長ったらしい質問し、相手も複雑な返し方をしてくる。こうして女子大生が六十九年の現在と野枝や大杉が生きる大正五年、西暦だと一九一六年か…の時代が交差しながら展開する。伊井利子演じる束帯永子と原田大二郎演じる和田究の駆引きや絡みが非常に遊戯めいていて、一方の大杉らの三角形の性愛もラストの三つ巴的な虐殺までの劇が濃密で正岡逸子を演じた楠侑子が大杉を刺す場面など極めて凄く情念に満ち溢れてる。兎にも角にも室内も野外も完璧な構図でたまげた…白と黒それぞれの基調が魅せる美しい映像表現とカットやショットの最小単位を元にした集合がシーンを構成するシークエンス…難解極まりない作風の中で起きる芸術は最早思考を停止させる。政治と性の融合的革命と洒落た空間と感覚が凄く影響される。吉田喜重恐るべき作家である… 。近代的若しくは前衛的な演出の空間と原風景かつ日本歴史ある佇まいと和楽器や着物と言う文化的背景の違いを一国の島国で対比させ、関東大震災直後の大正十二年に起きた甘粕事件別名大杉事件を仮構、虚構とした点は大いに評価できる。独特なカメラアングル、スクリーンが薄ら真っ白になり、和傘を差す二人の女性の姿、第二部へ移行する場面での静止画、黒を基調とする画作り、海岸沿いをロングショット、波音、尺八、近代的な高層ビル、前進するカメラ、固定ショット、白を強調した画で小刀に触れ、そこから血が滴り落ちる妙な演出には驚いた。それに襖が次から次へと倒れれ細川俊之演じる大杉榮が刺されるシーンは見もの。上半身裸の男が首吊りを真似る場面、女が裸になり床に這い蹲りカメラを回す男、白いクロスに立ち、ストッキングを燃やし、炎越しに二人の絡みを撮るとか…凄い。ラスト衝撃な様は記憶に残る虐殺だ。それから撮影所でフィルムをロープに見立てフィルム艦に足を掛け吊る描写、役者が勢揃いするモニュメント写真、これが吉田が選んだ題材の帰結だ。最高傑作だ。‬
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