みかんぼうや

あの子を探してのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

あの子を探して(1999年製作の映画)
3.6
【ドキュメンタリータッチで中国の困窮した山村部における生活や教育事情にスポットをあてた社会的意義あるヒューマンドラマ】

12月末までに配信終了となるU-NEXTのマイリスト作品が24本!いくら年末の休みがあるとはいえ、さすがに仕事と忘年会で慌ただしくなるこの時期に全てを観る時間はありませぬ・・・ということで、今月はその中でも特に気になる作品を選んで視聴。本当は、レビュアーさんお薦めの作品ですぐに観たいものもいっぱいあるんだけどな~。

さて、その12末配信終了マラソンの1発目が先日の「或る夜の出来事」、そして2つ目が本作。

あの「活きる」「初恋のきた道」の巨匠チャン・イーモウ監督による、中国のとある山村の学校風景を通して山村部の教育事情と都市部との経済格差をストレートに描いた作品。

先日観た同監督の中では比較的新しい作品「妻への家路」が思いのほかドラマチックな演出強めの作品だったのに対し、それより15年以上前に作られた本作は、演者たちもほぼ全員がその土地の素人で(本人役を演じる)、どちらかというとドキュメンタリータッチな描き方。「妻への家路」とは対照的で、個人的にはこの作風のほうが好みでした(「活きる」はドラマチックでも好きですが)。

人里離れた山村で、1本のチョークすら貴重品と言っても過言ではない小学校に派遣された代理の先生はなんと13歳の少女。子どもたちをまとめるのも一苦労な状況の中、一人の生徒が経済的事情で学校に来られなくなり都市部に出稼ぎに行った彼を探しにいく・・・

映画の展開としては、前半部の山村での学校風景は、その厳しい経済的現実や教育環境を垣間見ることができ非常に興味深い内容であるものの、タイトルにある後半の生徒探しについては同じようなシーンが繰り返されるので、“物語”として観ると、若干間延びというか退屈な画が続くのが本音。そこからラストに向けては急に映画的でドラマティックな展開になるので、少々面食らったのが正直なところです。

ただし、監督が本作を作った意図は、経済的に困窮している山村部の教育事情にスポットを当てることで、より多くの人々に関心を持ってもらうことだったという事実(そのために現地の素人を使ったということ)、そして本作を通じて実際に中国山村部の経済・教育事情に関心が高まり、実際に舞台となった村は多くの寄付金を得て、校舎の建て替えも行われたという結果を鑑賞後に知ると、本作への感じ方もがらりと変わり、その映画としての意義や力強さを実感し、一気に余韻が膨らみました。

そう考えると、上記で“間延び”と書いてしまった繰り返される同じようなシーンも、目的を達成するために“何があっても諦めず食い下がる”中国の山村の子どもの精神力や力強い行動と捉えられるのですよね。

中国では年間100万人以上の子どもが経済的困窮のために学校を退学しているという事実も本作内で語られており、この村と同じような状況に置かれている学校はまだまだたくさんあるのでしょう。この作品が作られたのは20年以上前で、特に2010年以降の中国の飛躍的な経済的成長を経て、状況は多少は変わっているのかもしれませんが、中国の経済格差は開く一方というニュースも多いことから、今でも同様の課題を抱える地域はかなり多いでしょう。

そしてこの格差の拡大には、生まれた家の貧富の差で受けられる教育の格差が広がり、富裕層の子は幼少期から良い教育を受け大学に進学する一方、貧困層の家庭では本作のように十分な教育を受けられず、学歴が大変重視される中国においては大人になってからもいい仕事につけずにますます貧困に陥っていく、という負のスパイラルが大きく起因してことに間違いありません。

ただ、この問題はやはり個人間で解決するのは現実的にかなり難しく、政府と自治体が連携して取り組んでいくことが重要になるのでしょうが、これだけの大国となると、実際に各山村部まで手がまわることはかなり難しいでしょう。そう考えると、なかなか胸が締め付けられるものがあります。

日本でも、この所得格差と学力の課題について、最近は地域のボランティアやNPOなどが寺子屋的な組織を運営して塾などに通えない子などの学力サポートをしている取り組みがドキュメンタリー番組でよく取り上げられていますが、これは世界共通の問題ですよね。

そんなことを考えさせられるところからも、終盤を除いてはストーリー性の強い映画というより、どこかドキュメンタリーを観ているような印象の残る作品で、チャン・イーモウ監督の映画監督としての業の幅広さと強い意志を感じる作品でした。
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