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マザー、サンのSのレビュー・感想・評価

マザー、サン(1997年製作の映画)
3.5
遠くに響く汽笛と大気を裂く風の音がさみしい。静かに世界が去ってゆくからだ。そうして、のっぺりと平板化させられたフィルムの歪んだ世界の内部に母子が閉塞する。今際になって生まれた頃の思い出を訥々と話す母の声を聞いたあとで、息子は一人、淡い太陽の光のなかを彷徨うのだが、よりいっそう酷くなる空間の歪みによって、この光はあたかも母の命のメタファーのように明暗を繰り返しながら息子の形姿にまとわりついているかのようである。しかし映画は暗闇で事切れる。動かない母を見送るにしてはあまりにもロマンチックな言葉のせいで。
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