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共犯者のotomisanのレビュー・感想・評価

共犯者(1958年製作の映画)
3.9
 殺人強盗が後ろめたいのかと思えば共犯者の消息が知れず神経衰弱気味な根上、新聞広告と手紙の遣り取りで商工特報なるでっち上げ会社の調査員を募り、福岡を根城に高崎在住の元共犯者の身辺を探らせる。
 考えてみれば幾ら不況下とはいえ、2000kmの遠隔地から面通しもなしにそんな怪しげな仕事の委託受託ができてしまうのか?戦争から13年、暮らしや経済活動の金額、物量と外形だけでなく信用の回復もそれだけ進んだという事か。
 そんな信用に乗っかって共犯高松の穏健な暮らしが揺らぎだし破綻し流謫を始めるさまを伝え聞き、根上の心の闇も深まってゆく。あの殺人者高松が零落して西下する足音が近づくのに耐えきれず殺意で気持ちを奮い立たせるが、神経衰弱根上ではあの船越調査員にも敵わない。
 この映画、へたれの船越が見せる火の山頂上での3分天下の凶相にどよめいてしまうが、殺人強盗犯相手の未遂なりとも恐喝であろうに、それでもお蔵入り凶悪犯の末路も知れたお手柄だか知らん、奥さんのご注進もあってか不問らしい。
 これを強い女に免じてというのなら、他方で高松の道を踏み外させたのも女、根上を弱らせた背景もまた女というわけで、犯罪共犯、付随犯すべて女によって破綻せられた格好である。ところが、根上の心情深くに分け入ったつもりの婚約者叶順子の憂いは人を見る目の足りない自分に注がれるのか、殺人強盗に加担した根上のそれと異なる心情に触れてそれを救えなかった悔いに注がれるものか如何許りであろう。

 余談ながら、岡山市電の通ういち交差点のロータリーの広大な事。そこに一両の電車が差し掛かる、それが戦後更新された小型の単車で、交通量の増加に伴いその余命も長くはあるまい。ただ、あの長閑さも当時は復興の先端景であったに違いなく、ほんの数秒であるがおそらくあれ以外、動画資料は求めても望めまい。ささやかながら第一のどよめきはそちらに奪われたのである。
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