丹叉

灼熱の魂の丹叉のレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.5
「「衝撃的なラストに開いた口が塞がらない」」この謳いは灼熱の魂の為にある様なものです。

既に最大値に達していたヴィルヌーブへの評価が限界突破した。なんだこの天才的な映画は。母が双子の兄妹に残した謎が徐々に紐解かれてゆくにつれ心拍数も上がってゆく。点と点が繋がった瞬間、文字通り本気で開いた口が塞がらなくなる。シモンが告げる“1+1=1”。一瞬時が止まる。そしてジャンヌは嗚咽をあげる。真実が明かされた瞬間にわかに信じ難い余りにも不憫過ぎる母親の過去を目の当たりにする。

“1+1=1”の結末に向け、その時点では違和感でしか無いが繋がれると線になる点が散りばめられている。ドラマ映画は娯楽性に欠け、観るのが退屈に思う人がいるだろう。私もそうだが、ヒューマンドラマ系とてやはりヴィルヌーブは観客を置いて行かない。謎が謎を呼ぶミステリーチックな脚本。DUNEを除き自身で脚本を描いた最後の作品であり、ヴィルヌーブのストーリーテリングの才能を拝見する事が出来る貴重な作品。
そしてまたは当事者達の側に居る様な、一緒に真実突き止めるべく動いている様な没入感がこの映画にはある。この感覚は監督特有の美しく無駄の無い構図カメラワークにより齎されてるのだろう。ショット一つ一つが芸術的。燃え盛るバス、風に揺られる木々。
また、作中に所々数学的な言い回しが出てくるのだがそれが物凄く洒落て感じる。“1+1=1”もうちのひとつ。ヴィルヌーブのセンスが垣間見える。
また、エンドロール開始時、“叔母に捧げる”とあったのが興味深かった。単に最近叔母が亡くったからなのか、もしくは...。ちなみにヴィルヌーブの父は「「公証人」」らしい。

ヴィルヌーブ監督自身もそうしたいと述べているが、こういった小中規模の映画をもっともっと撮ってほしい。もちろんSF大作も大歓迎なのだが、メッセージや2049そしてDUNEでもはや大作におけるフィルモグラフィは完成でいいんじゃ無いかとすら思える。それ程にこのSF3作も素晴らしかった。ここで作品名を出すのが烏滸がましいくらいには素晴らしい。大傑作。しかしやはり監督もこの立て続けに行われた大作映画の制作に疲れ、燃え尽き症候群らしい。DUNEが完結した後、監督はまたこういった規模の映画に戻って来るのだろうか。
丹叉

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