よるこ

灼熱の魂のよるこのネタバレレビュー・内容・結末

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

双子のシモンとジャンヌはある日プールで突然茫然自失になりそのまま亡くなった中東系カナダ人の母ナワルの謎めいた遺言を公証人から受け取る。愛された記憶のないシモンは、遺言を無視しようとするが、姉ジャンヌは存在すら知らなかった兄や亡くなったと思っていた父を探すため、母の国へ旅立つ。

そこで、彼女が異教徒の男と愛し合った為彼を殺され、その後子供を産み、その子を孤児院に預け村を追放されるように街へ出た事、叔父の下で大学に通い学生運動に夢中になるが内戦の激化により、預けた息子を探しに行って息子が戦火に呑まれた事や虐殺を目の当たりにし、復讐を誓いキリスト教右派の指導者を射殺し、15年間監獄に閉じ込められた事、最後はアブ・ダレクの執拗なレイプの末子供を産んでまた引き離され釈放されたという激動の人生を知る。同時並行的にナワルの人生がオーバーラップして描かれる。

姉に呼ばれ、連れ戻すためにシモンも公証人と共にレバノンへやってくるが、助産師の証言から監獄で生まれたのは兄ではなく、自分たちだと知りショックを受ける双子。シモンも自分たちの生い立ちを知り役目を果たせと言われ兄を探すことに。母ナワルをカナダに送り出してくれた男が、兄ニハドの事を教えてくれる。そして、父(アブ・ダレク)と兄(ニハド・ド・メ)が同一人物だと知る。
1+1=1(兄+父=一人)なんてことがあるはずないよな?二人は真実の前に呆然とする。
カナダのプールで息子の証の右足のタトゥーを見つけ近づいたナワルは振り返った男が拷問人だと知り、三通の手紙を残す。双子から手紙を受け取ったニハドは子供のこと、母の愛を知る。憎しみの連鎖はようやく終わったのだと。


魂が焦げ付くような痛切な物語だ。戦士となり、母を探し求めながら狙撃手として逮捕され、拷問人となりレイプし孕ませた歌う女が実の母だと知ったニハド、残酷な運命から生まれた子供達、その身に負うにはあまりにも重い運命を知ってしまった後、子供達も愛によって生まれてきたのだとようやく抱きしめられると告げる母の手紙...何もかもがラストの繰り返される愛の言葉で、感情が揺さぶられる。涙がしばらく止まらなくて呆然としてしまうあまりに激しい映画だった。イスラムとキリスト教徒の宗教対立による紛争によってこんなありえないような運命を背負う女性が本当にどこかにいると思える世界が悲しい。

彼女が夫を身内に殺された後、自身の宗派でもあったキリスト教徒のイスラム教徒への弾圧を目の当たりにして平和を願う学生運動家からテロリストになってしまうあたりはちょっと描き方にいきなり感を感じなくはないけど、そんなことがふっとぶくらい心揺さぶられる物語だ。
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