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犯罪河岸のhasseのレビュー・感想・評価

犯罪河岸(1947年製作の映画)
3.8
演出4
演技4
脚本3
撮影4
照明4
音楽5
音響3
インスピレーション4
好み3

世界史ではじめて国際三大映画祭の最高賞を獲得したクルーゾー監督の、初鑑賞。

主人公夫妻が老人殺しの罪で刑事に追い詰められていくサスペンス、真犯人は誰かというミステリーが主体であるものの、リアリズムのタッチで描かれる、主要人物の人間模様や市井の暮らしぶりのシーンが秀逸。

主人公夫妻をねちっこく追い詰める刑事。二流三流の作品なら徹底的に嫌な敵キャラクターに仕立て上げるだろうが、
非常に人間味がある。WW2でアルジェリアに出征し、そこで出会った幼い子供を養っている。子供は幾何学が苦手で、将来の夢はパイロットなんだと話す姿は一般的な父親そのものだ。
彼の人情味あふれるキャラクターがあるから、ラストシーンが暖かさで満たされる。雪が降るなか刑事は夫婦宅を出る。すると子供が待ち構えていて、雪の塊を投げつける。刑事は子供を抱きかかえ、「何か食べさせてやるぞ」と言って並んで帰路につく。それを一つの窓枠に身を寄せあって見送る夫婦。
一つの事件をきっかけに刑事と容疑者という立場で対立していた両者の関係性は雪解けを迎え、夫婦も刑事もそれぞれの家庭へと戻っていく。あのラストシーンの爽快感、解放感はとても良い。
そういうリアリズム描写が、それまでの一般的なフランス映画とは一線を画する要素であり、後にヌーヴェルヴァーグの作家たちからクルーゾーが仰がれる存在となった所以なのかも。

あと、夫婦宅の階下に住むドラも素敵な女性だ。老人殺し証拠隠滅のため単身殺人現場に乗り込む胆力。妻のことを(ほぼ同性愛的に)愛しているかとおもえば夫を誘惑するような素振りを見せるミステリアスさ。自分の名前を経営するカメラ店の店名にし、服にもDORAとプリントしちゃう可愛いらしさ(?)。

ウェルメイドな作品ではあり、劇場で観客が躍りを観ているシーンは好きだし、音楽が随所であふれているのも良いが、個人的に全体を通して地味な印象はぬぐえず、サスペンスとしての面白さも平凡。他の作品に期待。
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