半兵衛

都会の横顔の半兵衛のレビュー・感想・評価

都会の横顔(1953年製作の映画)
3.1
映像の吟遊詩人と呼ぶに相応しい清水宏監督だけに、舞台となる銀座の街並みを得意の移動撮影などを駆使して魅力的に撮してはいるのだけれど肝心の物語があっさりとしすぎていて出汁が効いていない味噌汁を食したような物足りなさを覚えることに。同時にそれはありのままの風景を撮ることにこだわる清水監督の姿勢によって役者を風景を際立たせるための道具になってしまっているということで、名優森繁久彌でさえ洗練された移動撮影や映像テクニックの前では形無しになってしまっている(ただそんな清水宏監督に対して強烈なおばさん演技を披露して場をさらった沢村貞子はさすが)。

そしてなにより1953年の銀座という『ゴジラ-1.0』でも完全に再現できなかった街や人の風景をそこにいるかのように鑑賞できるという貴重な体験が出来たのでそこは結構満足した。

前半の迷子をめぐる主人公のサンドイッチマン(池部良)や靴磨き(有馬稲子)、迷子の母親などが街ですれちがっていくドラマはそれなりに見ごたえがあったけれど、終盤唐突にヘビーになる展開に唖然。確かに中盤「万引きが捕まった」という人々の会話から嫌な予感はしていたけど…。そこからの何も解決していないはずなのに無理矢理ハッピーエンドにするラストも困惑しかない。

それにしても銀座の街で移動撮影なんて機材も発展していない戦後すぐの時代によくそんな大規模な撮影が出来たなと感心する、セットで大規模な街を造り上げてそこで撮影した『ワン・フロム・ザ・ハート』とは違う「セットには風が吹かない」としてスタジオを嫌っていた巨匠ならではの贅沢な映画世界がそこにはある。
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