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王と鳥のmのネタバレレビュー・内容・結末

王と鳥(1980年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

※数年前書いたレビューを見つけたので載せてみます。長い。

物語の舞台は、目もくらむばかりにそびえ立つタキカルディ王国の高層宮殿。最上階の秘密の部屋には、3枚の絵が飾られていた。美しい羊飼い娘と、煙突掃除の青年、そして、孤独な王の肖像画。娘と青年は恋をしていた。その仲を引き裂こうとする王。ふたりは絵の中から、逃げ出した。一羽の鳥が道先案内人になり、めまぐるしく続く階段を、どこまでも駆け降りてゆく……。
 しだいに明らかになる、宮殿の正体。為政者も、マスコミも、そして民衆も、みんな一緒くたになって天高くそびえる高層宮殿は、世界の支配構造(システム)そのものだった!


ゲド戦記と同時に映画上映された作品ですが、昨日ようやくTSUTAYAで借りて見ました。
これはなんとも、考えさせられる作品です。深いです。とても。
こんなすごい作品が1952年には[やぶにらみの暴君]として世に出ていて、
1980年に[王と鳥]として再び世に出ていたわけで。
これは、宮崎駿がとても影響された作品として有名ですが、なるほど、
宮崎アニメに通じるものを感じます。王の秘密のアパートは、クラリスが幽閉されてた部屋に似ているなあ。

さて、このアニメ、ものすごく平坦なイメージです。(あくまで私のイメージですが)
フランス語の響きがそうさせているのか、セリフの少なさがそうさせているのか、
色の少なさがそうさせているのか、静かな音楽がそうさせているのか、理由は分からないんですが、
色々な事件があるのに、それを、一歩引いたところで眺めているような。
近付けば凸凹しているのに、遠くからだと一辺に見えるような。

「この話は正真正銘真実の物語、私や皆に起こった出来事です」
鳥のセリフから始まるのですが、そうなんですよね、このアニメで起こる全ては、
今の現実社会で起こっていることを、抽象的に表現しているような作品でした。

とある王国。王様は国民が嫌いで、国民は王様が嫌いでした。
高く高くそびえ立つ王国は、最下層から、中級、上級、最上級まで、さまざまな人間が暮らしていました。
射的が趣味な王様は、その日も一羽の小鳥を的にして、射的をしていました。
そこに、お父さんの鳥がやってきて、小鳥を助け出します。王様は怒って、城に戻りました。
王様は、何か自分に気に入らないことをする人間がいると、ボタンをポチと押します。
すると、その人間の足元の床が外れ、その人間は、どこか遠いところに消えてしまいます。
さてある夜、王様が秘密のアパートに戻ると、3枚の絵を眺めました。
羊飼いの娘、煙突掃除の青年、そして、自分の肖像画。
王様は、羊飼いの娘に恋をしていましたが、羊飼いの娘は、煙突掃除の青年と、恋に落ちていました。
その夜、娘と青年はこっそりと絵から抜け出します。それを見ていた王様も、絵から抜け出します。
娘と青年が秘密のアパートから逃げ出したとき、本物の王様が眠りから覚めました。
すると、絵の王様が、本物の王様の足元の床を外し、本物の王様は、遠くへ行ってしまいました。
絵から抜け出た王様は、本物の王様とすりかわりました。それは、家来も、側近も、警察も、マスコミも、
誰一人として、その王様が、絵から抜け出した王様だとは気付きませんでした。
さて、部屋を抜け出た娘と青年は、屋根の上に座っていました。
それまで、絵の中の世界しか、絵から見える王様のアパートの世界しかしらなかった二人は、
世界の美しさに圧倒されてしまいます。そのとき、屋根で巣を作っていた鳥の小鳥たちの、
4羽のうちの1羽が、王様の仕掛けた罠にかかって、鳥かごの中につかまってしまいました。
煙突掃除の青年はそれを見ていて、捕らわれた小鳥を、逃がしてやりました。
すると鳥がやってきて、「ありがとう」と言います。
そのころ、王様直属の警察が、娘と青年を捜し始めます。
そびえ立つ王国の城から抜け出すため、鳥は二人を引導していきます。
どこまでも続く階段を駆け下り、警察やコウモリたちに追い掛け回され、やがて二人は、
そびえ立つ王国の最下層にたどり着きます。そこには、盲目の音楽家をはじめ、様々な人間が暮らしていました。
二人が、上の世界から来たと告げると、その場にいた人間は盛り上がります。
「じゃあきみたちは、太陽の光を見たことがあるのかい?」
「月や、太陽も見たわ。昇るときは黄色く輝いていて、落ちるときは赤いのよ」
本当に、そんな夢のような世界があったのだと、地に暮らす人々は喜びます。
そのころ、絵から抜け出た王様は、地下に眠っていた巨大なロボットを操り、娘と青年を追います。
とうとう、青年が捕まり、血に飢えたライオンやトラの群の中に、青年を置き去りにしようとしました。
そのとき鳥が助言して、娘は王様との結婚を承諾しました。後で必ず助けに行くからと。
そして鳥と青年は警察に捕まり、地下で労働を余儀なくされます。
娘は「自由にしてくれるんじゃなかったの?!」と聞きますが、警察は「労働こそ自由だ」とはき捨てます。
さて王様の宮殿では、王様と娘の華やかな結婚式の準備が始まりました。
そのころ、捉えられた青年と鳥は、脱出を試みます。が、またしても捕まり、
再び、血に飢えたライオンやトラの檻に入れられました。そこには、あの盲目の音楽家が、
ライオンやトラに向けて、音楽を聞かせていました。ライオンたちは感動して聞き入っています。
鳥は、ライオンやトラに向かって、提案を持ちかけます。
きみたちが空腹なのは、王様のせいだと。王様が捕らえた羊飼いの娘は、きみたちに
与えるための羊を、太らせて、きみたちにあげるのをまっていたのに、
王様はその羊飼いの娘を無理矢理引きつれ、結婚するという。きみたちの食料の羊たちは、
散り散りになり、いなくなってしまった。今こそ、その復讐をするべきだと。
ライオンたちは檻を壊し、最上階の王様の宮殿へ向かいます。
結婚の誓いの途中で、青年と鳥、ライオンたちは、宮殿に到着しました。
パニックの中、王様は、娘を連れて、巨大なロボットに乗り込みます。
鳥と青年は二人を追い、ロボットの上で、王様と青年は戦います。
二人が戦っている間、鳥は、ロボットの操縦士を倒し、鳥自ら、ロボットの操縦を始めます。
鳥は、その巨大なロボットの腕を振り、足をまわし、高くそびえ立つ宮殿や、人々の住む街、
それら全てを、粉々に壊していきます。そしてとうとう、王様も遠くへ飛ばしてしまいました。
娘と青年に幸福が訪れました。3羽の小鳥たちも嬉しそうに飛び回ります。
残る1羽の小鳥は、またしても、例の鳥かごの罠に捕らえられていましたが、
鳥は、その罠から小鳥を救い出し、最後に、巨大なロボットの手で、鳥かごを破壊しました。

・・・ざっとこういう話なんですが。
なんか、考えさせられてしまいました。
宮殿はなに?王様とは?鳥とは?鳥かごとは?盲目の音楽家や、ライオンたちは?
全てがシステム化された巨大な王国というのは、今の世界なのでは?
そんな壮大なアニメが1952年に完成していたとは。すごい。
静かな音楽が流れ、単色の世界はあまり変化がないかもしれないですけど、
でも、すごい深く考えさせられたアニメでした。
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