私にとってベッソンのベスト3はこのグランブルーとレオンが同着1位で、3位がフィフス・エレメントである。
見事に三作とも全く異なる雰囲気の作品ながら、その全てに共通しているのは登場人物一人一人のキャラが立っていてそれぞれにとびきり魅力的だということ。
この映画のメインキャストも、実に個性豊かな愛すべき人物ばかりで、まとめて抱きしめたいぐらい。
悪意ゼロの美しい瞳と特異な才能を持つが時々イルカになってしまい人の話が通じなくなる困ったちゃんのジャック、ガキ大将のまんまでかくなってもマンマには頭が上がらず、トドのように滑らかな巨体の仁王立ちがいちいち可愛いエンゾ、見た目も行動も小動物のようで可愛らしく、それ故傷ついた様の痛々しさがいっそう胸を打つジョアンナ・・・そしてエンゾの弟ロベルトやマンマ、ジャックの叔父など周囲の人間もそれぞれに癖が強くてなんとも愛おしい。
久しぶりに観てみたら、けっこう覚えていないシーンがあり、もしかすると昔何度も見たのは違うバージョンだったのかも知れない。
その一方で、別の映画の記憶がごっちゃになっているのか、あると思っていたのに無いシーンもあった。それはマンマが登場するパスタのシーンで、私の遠い記憶では出来たてを速攻で食べないとキレるマンマのため、テーブルで今か今かとパスタの出来上がりを皆で待ち構える・・というような光景だったのだが、作中にそんなシーンは無かった。
あれはグランブルーのシーンではなかったのだろうか?あれを観て以来、自分がパスタを作る時も家族には茹で上がり前に声を掛け、間髪入れずに食べるようテーブルにつかせているというのに。はて?
冒頭の美しいモノクロームのギリシャの景色に始まり、タイトル通り様々な表情を見せるブルーを目に焼き付けながら、最後にはジャックが求めたどこまでも深遠なブルーが心の底に澱のように静かに沈んでいく・・・
てな感じのオサレ寄りな作品評を巷ではよく見かけるので、ともすればヴェンダース風のお耽美で冗長な作品を想像されがちだが、そこはベッソン、キャラの作り込みを生かしたコミカルなシーンもちょいちょい入るので、この長尺でも私は全く退屈しなかった。
むしろ、あまりにも多層的に魅力がありどんな映画?と訊かれても一言では答えにくいところが、そのままこの映画の魅力だと思う。
ジャックとエンゾの生涯に渡る友情ものとしても、ジャックとジョアンナと海(イルカ)の三角関係を描いた恋愛ものとしても、フリーダイビングというニッチな競技に賭ける奇人変人アスリート達を描いたスポコンものとしても、それぞれに味わい深く、面白い。
嗚呼それなのに、この完全版を私は未だにスクリーンで観ていない。悲願。
*この作品についてはもうちょっとここで語ってます。
「うるふの夜お茶シネマ」第7回「グラン・ブルーまたはグレートブルー」
https://twitcasting.tv/eigawolf/movie/802341093