ケンヤム

新・仁義の墓場のケンヤムのレビュー・感想・評価

新・仁義の墓場(2002年製作の映画)
4.5
小林勇貴の逆徒を観て、すぐに三池崇史のキチガイ映画を観るという暴挙!
邦画界には、こんなヤバイ監督が二人もいると思うと日本も捨てたもんじゃない。

深作欣二版の石川力夫と三池崇史版の石川力夫の大きな違いは、狂っている理由が見えてくるか、見えてこないかの違いだと思う。
深作版では、戦後という時代背景から、行き場のない暴力を周りに発散していくという石川力夫の人物背景を推察できるが、三池版にはそれがない。
なんで、こいつがこんなに狂っているのか分からないのだ。
まるで、幽霊のようだ。


戦後復興の負の側面を背負って死んでいった深作版の石川力夫。
バブル経済という偽りの繁栄の負の側面を背負って死んでいった三池版の石川力夫。
というような分け方もできるかもしれないが、三池版の石川力夫はとにかく狂っている理由が見えてこないのだ。
それが怖さを倍増させる。

無目的で、行き当たりばったりで、何を目的にしているかわからない。
三池版の石川力夫を見続けているうちに、私たちそのものじゃないかと思えてくる。
ルールと規範を守っているから、私たちは無目的に行き当たりばったりに金儲けしても狂うことはない。
ルールと規範を守っているから、とりあえず人とつながっていられるし、組織に所属していられている。

ルールや規範という概念を捨ててしまうだけで、こんなにも狂えてしまうということを石川力夫は教えてくれる。
私たちが正気でいられているのは、偶然でしかないのだと思う。
私たちだって、ちょっと間違えれば石川力夫になれる。

この映画の中で、石川力夫を"それでも"助けた人たちのように、私も石川力夫のことを笑えないし、否定できない。
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