囚人13号

怒りの葡萄の囚人13号のレビュー・感想・評価

怒りの葡萄(1940年製作の映画)
4.9
Blu-rayで再見。土地というアイデンティティを失った農民は残された良心と安住の地を求めて永い旅に出る。

フォードのキャリア中でも、といっても文学の映画化なので下手に評価するのは正しくない気もするが、とにかく徹底して容赦がない。根本では歪んだ権力と社会を糾弾しているのだが、観終えた後の脳内では画面がずっと薄暗く記憶されているというか、無意識的に現実を歪曲してしまうほどに暗い。

残酷な語りに徹するフォードは原作と改変部分すら社に従ってじっと演出しているよう、そうした意味では無個性的に思われるかもしれない作品なのだが、ラストの集団からの孤立に紛れもないフォードを見る。
勿論そこだけではなく、親子で交わされる感動的なやり取りが原作も神である事の弁証なのだが、収監されていて実情を知らなかった男が腐敗した社会を嘆き正義を叫んで家族の元から旅立っていく、ここで我々はあの法と秩序を信じる若き日のリンカーンと本当に同一人物が演じているのだろうか…というジョン・フォード×ヘンリー・フォンダの極個人的/相対的なエモーションを感じざるを得ないために泣いてしまう。

つまり母と別れるシーンの朝方が悲劇的だからでも、まして微かな希望を暗示しているようだからでも全く無く、これまでは信念に向かって突き進む無垢で虚弱な青年でしかなかった彼の、あの影の逞しさがジョン・ウェインと同等の厚みを帯びているが故に感動的なのだ。
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