geminidoors

ロスト・チルドレンのgeminidoorsのレビュー・感想・評価

ロスト・チルドレン(1995年製作の映画)
4.9
ジャン=ピエール・ジュネ監督作品の中で一番好きな物語り。そう、或る完成度の高い物語。ギリアムやバートンとは匂いが異なる。
そして既に社会人と成って久しい我が娘が未だ幼い頃、ワタシの胡座の中でちょこんと座り、何回も一緒に観た個人的に忘れられない作品でもある。
娘はこの作品を観る時、必ずや"ガボっ"とか"ゲボ〜"とか笑いながら真似をしていたのを思い出す。



赤と苔緑と漆黒手前の群青色の闇の中、素晴らしく凝りまくったセット内で物語は進む。

誠に純粋な怪力男と、世界で一番美しいのではないかとさえ感じてしまう美少女との絆が描かれる。

決して堅物な我が国では設定されない、そして何かと世知辛い昨今の世の中では設定しにくい、謂わばフリークス達が闇で蠢く。
そして或る意味で淫らで怪しい演出。然しそれは決してポルノではなく、子供と一緒に鑑賞可能な"妖しい世界"なのだ。

実際は子供心を忘れがちな大人達に向けたお伽噺。或いは魔法がかった紙芝居の様な…

入り組んだセットの中で、主人公達と共にワタシ達観る側も、永遠に脱出出来ないかの迷路に嵌まり込んでゆく。
この美術感覚が肌に合わない者は置いてきぼりを喰らい、白けてしまうかも知れない。だから万人にはお勧めしない。


あくまで三拍子の迷宮音楽。
徹底した退廃的な凝り方の美術。
演技を訓練した大人には誰一人として真似出来ないであろう、幼子達それぞれの可愛い活躍。
そして何より、『薔薇の名前』に於いても主人公達より強い印象を残す怪優ロン・パールマンのThe 快演!キツいセーターがスバラシイ。
そして一説に依れば、本作のみで映画界から離れたという伝説の美少女。安物の赤色の吊りスカートが寓話のヒロインとしてなんともスバラシイ。
瞼を閉じれば今も直ぐ、暗い大海の上をたゆたう小さなボートに、怪力男と少女の二人(正確にはゲップする赤ちゃん入れて三人かな)が乗っている絵が浮かんでくる。



この作品は或る表現をするならば端っこに在る。端っこで輝いている。
併しそれはデジタルな光ではない。
あくまでアナログな、どこか温かく、優しい光だ。
映画に限らず体験は"いつ・誰と・何処で"によって印象もかなり異なるのだろう。本作も同じ。ワタシには記念みたいな作品なのだろう。
ハッキリしているのは、生涯に渡って時々観たくなるお伽話であり、本作とトニー・ガトリフ作品は己の一つのバロメーターでもある気がするのだった。
geminidoors

geminidoors