みやび

クリーン、シェーブンのみやびのレビュー・感想・評価

クリーン、シェーブン(1993年製作の映画)
4.4
自分の頭に受信機、指には送信機が埋め込まれていると信じている主人公ピーター。
彼は自分のように育たないため、と言われ愛する娘と引き剥がされて暮らしてきた。
一方で子殺し殺人犯を追う刑事は、不揃いな証拠ながらも自分の思い込みからピーターを犯人として断定し彼を追っていた———

確かに彼は統合失調症と言う病名があり、その深刻さは明らかだった。
しかし本作が本当に描いているものはこれとは別の所にある、「病名のつかない人間そのものの病」だと考えられる。
本作に出てくる人物たちはそれぞれ食欲、睡眠欲、特に性欲、といった様々な欲求に支配されている。
また、正義を見つめることのできない心の弱さや病に侵された人を排除しようとする考え、これらも名前のつかない病の一つのように思える。
正常なように見えている人間にも、隠れた異常性があるのではないだろうか。
病に侵されている息子を居ないものかのように冷たくあしらう母親。
証拠もなくただ「精神に異常をきたしている」という理由だけで人を疑い、捜査と言いながら自らの性欲を満たすためだけに女の家に訪問する刑事。
これらの部分に人間の持つ「病」が表れていたと思う。

本作の魅力は、統合失調症という病気に侵されている人をただの異常者として描かずに、一人の人間として描いているところにある。
他作品でよく見られる精神病患者とは、やっぱりどこかで「見た通り異常」というレッテルを貼られ、それを見守る「正常な良人」という関係性の元、エンタメとして消費されてしまっている。
対し、本作は表層的・深層的関わらず平等に「人間」を映しているところが素晴らしいと感じた。
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