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マルホランド・ドライブのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

マルホランド・ドライブ(2001年製作の映画)
4.2
『暗黒版「ラ・ラ・ランド」』


「ラ・ラ・ランド」(2016)の最終章で展開する7分にも及ぶパラレルワールドの回想を観たとき、勘のいい人なら本作「マルホランド・ドライブ」(2001)が元ネタになっている可能性に気が付くのではないだろうか。
いやむしろ、「マルホランド・ドライブ」がなければ「ラ・ラ・ランド」は生まれなかったのではないかと勘ぐってしまうほど、強力な影響がうかがえる。

↓以下、ネタバレなので読まないでね!

女優になることを夢見てハリウッドへとやってきた主人公が結局は恋に敗れ、「もしもこの恋が成就していたなら・・・」という理想実現方向へ分岐した世界線(パラレルワールド)を脳内で展開してゆくという筋立てが、否が応にも「ラ・ラ・ランド」を彷彿とさせる。

異なるのは、女優として成功した「ラ・ラ・ランド」のミアとは対照的に本作の主人公であるダイアン(ナオミ・ワッツ)は成功をつかむことなく精神を病み、悲劇的な最期を遂げる物語となっていることである。

まさに、「ラ・ラ・ランド」の裏側にあるショービジネスの陰惨な闇を描いた「裏ラ・ラ・ランド」と言えよう。


多くの人が指摘している通り、この映画でベティ(ナオミ・ワッツ)とリタ(ローラ・ハリング)が劇場でフェイクパフォーマンス(虚構のお芝居)を観劇するシーンは、それまでのストーリーがダイアンが眠っている間に見た夢であることを示唆するものであろう。(この映画は、ダイアンの寝息と共に幕を開けるのだ。)
それならば、それ以降の物語は果たして現実なのだろうか。
そもそも、我々にとっての「現実」とは何だろうか?


ここで、一旦「ラ・ラ・ランド」に話を戻してみる。
「ラ・ラ・ランド」のクライマックスとして名高いパラレルワールドは誰の想像を視覚化したしたものなのだろうか?
セブ(ライアン・ゴズリング)?
ミア(エマ・ストーン)?
それとも、セブとミアの両者の脳内に展開したイマジネーションをミックスした融合世界なのだろうか?

実は、答えが出ない問題なのである。
この問題を掘り下げる視点が「マルホランド・ドライブ」の裏テーマとなっているように思われる。

「マルホランド・ドライブ」は、「自己の相対性」について考える物語でもある。
自分がこの物語を体験し、想像している主体なのか。
それとも、いま自分の体験なり想像なりを外から見つめている相手こそが実は物語の主体たる「自分」であって、今まで自分として認識していた存在はその体験や想像が投影された写像を、主体と錯覚して居たに過ぎなかったのか。

我々は、体験や思考の主体としての「自分」という存在を学習によって獲得したのである。
「自分」という観念は、何万回と繰り返されることで慣れ親しみ、確信するに至った慣習に過ぎないのだ。
そんな「自分」が、絶対的に存在していると果たして言えるだろうか。


この「アイデンティティ(自己同一性)の揺らぎへの不安」というテーマの探求の旅を、デイヴィッド・リンチ監督は「ロスト・ハイウェイ」(1997)によって歩み始めた。
その内容は、朝、眠りから目を覚ますといつも同じ人物であることを体験することに慣れてしまったおかげで我々は変わらない同じ「自分」という存在を確信したに過ぎない、というお話である。
そして、このテーマを見事な形で発展させ、ハリウッドの闇という物語でくるみ込んだのが本作「マルホランド・ドライブ」である。


カミーラの殺害を依頼し、悲劇的な死を遂げるダイアンが自分なのか、それとも自分はカミーラでダイアンを死へと追いやったのか。いや、自分はそれを客観的に眺めていたウィンキーズのウェイトレスだったのか。(ウェイトレスの名前は「ベティ」なのだ。)

更に言えば、そもそもカミーラは実在していたのか。
カミーラとは、成りたかった自分の憧れを投影した想像上の人物に過ぎないのではないか。
だとすれば、夢から覚醒した筈の自分は実は未だ夢の中に居て、自分が内包する本質を部分的に少しずつ投影した様々な人物たちが織り成す悪夢の中の物語を見続けたまま、人知れず死んでしまって居たのかも知れない。
そして死後の自分の亡骸を目の当たりにするのもまた、我々が「自分」と呼ぶ意識である。


青い立方体のどの面から見る現実が、いわゆる「自分」の物語なのだろうか。
その立方体の鍵を握っているのは・・・

自分とは誰なのだろうか。


↓やっぱりハリウッドは奇妙な暗黒世界だ。
Your Heart Is As Black As Night / Melody Gardot
https://youtu.be/-AjBBsDn93Y?si=BlY_k4odkzJ8MIpv
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