とうじ

こわれゆく女のとうじのレビュー・感想・評価

こわれゆく女(1974年製作の映画)
5.0
神経症を患っている主婦の物語。

主人公が、自分の子供たちに「私を見た時に、あ、お母さんだって思う?それとも、変で少しおかしな人だなって思う?」と聞くと、7歳くらいの息子が拙い英語で「お母さんはお母さん。お母さんは、賢くて、綺麗で、ちょっとナーバスだと思う」と答える。
この映画はマザコン(フロイト的にいうと男全員)なら絶対刺さる。
神経症的なところも含め、主人公のアイデンティティなのであり、だからこそ(少々歪な形であっても)結ばれる絆はある。そして、神経症も含め、夫は主人公のことを愛しているのであって、神経症も含め、子供たちにとって主人公は、大好きなお母さんなのである。
しかし、やっぱり神経症の状態をそのまま容認できるほど、その症状も、世の中も甘くない。主人公は治療を受けることにし、精神病院から退院してきたのはいいものの、治療の効果によってすごく暗くなった主人公の姿は、精神的な意味で死んでしまったかのような絶望を感じさせられる。しかし、しばらくして神経症が再発したらしたで、また家庭内に亀裂が走りはじめる。
精神病を患っている人が、人間関係という面において、いかに板挟みにならざるを得ないか、というのを、絶望と希望を超越する生々しさで描く本作は、暖かいコメディでもあり、荒涼たる悲劇でもあり、力強いラブストーリーでもある。
あと、主人公の物語であると同時に、夫の不器用さを見守る物語でもある。特に、妻が入院してから、彼が「こういう時こそ家族の絆を深めねばならない」と奮起して、子供たちを海へ連れて行くのだが、何を喋っていいのか分からず、とりあえず缶ビールを飲ませまくる場面なんかは、酷すぎて笑える。
演技が本当にすごいのは、カサヴェテス映画お決まりだが、それにしても凄すぎる。あと侮ってはならないのは、本作の音楽。最も美しい映画音楽のうちの一つだと思う。
とうじ

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