ジョン・カサヴェテスは、自宅を抵当に入れて撮影し、出来るだけ一般的な共感を「得られない」ようなつくり込みを行い『アメリカの影』を完成させたという。
暗い部分や強い影を作らない全体に明るく構成された「ハイキー」の画面によって爽やかな印象を与えるが、描かれているのは精神のバランスを崩していく主婦とその家族たちのドラマ。
精神疾患に共通していることは「正常」と「異常」の境界があいまいで専門家にも判断が難しく、患者本人や社会の要請により境界自体がゆらめくことではないか。
ジーナ・ローランズの演技が素晴らしいのは、躁鬱の変化を真摯に表現し、彼女が異常であると決定する家族の苦しさがとてもリアルに伝わってくるし、夫役のピーター・フォークも妻をなだめる姿は彼女の躁状態を超えたテンションで、いったい「異常」とは何かという愕然とした混迷を誘う。
半年間の薬物治療を終え家族の元へ帰った妻を迎えたパーティーでのクライマックスシーンは、壮絶で残酷でそして優しい。