ボブおじさん

リバティ・バランスを射った男のボブおじさんのレビュー・感想・評価

4.3
この映画は、西部劇で名を馳せた巨匠ジョン・フォードと大スタージョン・ウェインによる〝西部劇の終わり〟を描いた作品とも言える。

因みに本作がジョン・フォードとジョン・ウェインの黄金コンビとしての最後の作品。伝説の影に隠された、誰も知らないある物語を描く。

トム・ドニファンという名もなき男の葬式に参列するため、上院議員にしてこの町のヒーローであるランスと妻のハリーは西部の小さな町シンボーンに駆けつけた。参列の理由を記者に問われたランスは、自らの過去を語り始める。

ジェームズ・スチュアートが演じるのは、大学で法律を学び理想に燃えて大都市からやって来た弁護士のランス。

だが道中いきなり悪党一味に襲われ身包み剥がされてしまう。襲った男リバティ・バランスは、この町に巣食う厄介者だ。

ここで登場するのが町でも一目置かれているトム・ドニファン。 演じるのは不死身の大スター、ジョン・ウェインだ。

トムはランスに言う〝西部じゃ法律なんて無意味だ。自分の身は自分でしか守れない〟60年以上前の映画だが、今の銃社会アメリカを象徴する様な言葉にゾッとする。

知性溢れ誠実さの塊のようなランスと、腕っ節が強く荒々しい牧場主のトムは、時に協力しながらもやがて1人の女性を巡って対立する。

暴力の前ではどんな正論も役に立たないと感じたランスは、危険を承知で銃の名手リバティ・バランスとの決闘に挑むのだが…



〈ここから少しネタバレ〉


〝トムにブーツを履かせてやれ!それからガンベルトも〟
〝旦那、この町でガンベルトをしている奴なんてもういませんや〟

最初に観た時は〝銃による暴力〟から〝法による秩序〟へと移りゆく西部の町に消えた〝伝説にならなかった男〟の話と解釈した。

もちろんその考えで間違いではないのだろうが、2度目の今回は、消えゆく西部の男トムの究極の愛の物語に見えてしまった。

トムは彼女を愛していたし、ランスもそのことを心得て彼女に接していた。だがランスの誠実な人柄と〝法による秩序〟を目指す志に触れる中、彼女にはランスこそ相応しいと思って〝自ら身を引いた〟のではないかと思えてきた。

もしトムが彼女と結婚したいのなら、「リバティ・バランスを射った男」は自分であると表に出て町のヒーローになったのではないだろうか?

そしてトムは彼女にプロポーズをして、ランスは町を出て行ったはずだ。そうすることが出来たのに自分から身を引いたのは彼女の幸せを願うが故の究極の選択だったのではないかと思った。

妻ハリーの心境を言葉ではなく棺の上のカクタス・ローズに語らせる演出も見事。

ジョン・フォードに見出されショットガン・ライフル片手に〝強いアメリカの男〟の象徴を演じてきたジョン・ウェインが、恩人との最後の仕事で演じたのは、無敵のガンマンではなく、誰も知らない〝本当の英雄〟の男であった。


〈余談ですが〉
本作で敵役のリバティ・バランスを演じたリー・マーヴィンは、元々は長身で強面の悪役俳優に過ぎなかったが、この作品で大スターのジョン・ウェインと堂々と渡り合った演技が認められて、アクションスターへの道を歩み出す。

そしてこの映画の3年後「キャット・バルー」では何とアカデミー賞主演男優賞を受賞するのだ😁

今回2度目の視聴で初めて気づいたが、リバティ・バランスの手下の長身の台詞の少ない方の男に見覚えがある。

アレ?と思って調べてみたらやっぱりそう!「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」のリー・ヴァン・クリーフだ😊

現代の巨匠スティーヴン・スピルバーグの半自伝的映画「フェイブルマンズ」の中にも本作が出てくるが、それにしてもこの映画を観て〝真実をねじ曲げること〟が如何にたやすいかを感じ取ったスピルバーグ少年の感受性の豊かなことよ!

語り継がれる伝説が真実だとは限らない。目に映るものさえ事実だとは言い切れない。その時のトムの心境や如何に?