バートロー

グラン・トリノのバートローのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
5.0
頑固なアメリカじじいが、隣に住むアジア系移民の青年と邂逅するという極めてミニマルなストーリーだけど、ここに米国や世界中の移民にまつわる事が全てを詰めた21世紀の1本。

口を開けばレイシズム丸出しで救いようのない老害的な主人公こそが、かつてのアメリカでは被差別対象のポーランド系移民。おそらく第二次大戦時の移民1世か2世であり、当時は冷ややかなエスニック・ジョークの格好の的だったはずだ。そんな彼が誰よりもアメリカ人であろうと、若い時は朝鮮戦争で活躍し、フォードの工場で定年まで勤勉に働いたことは、玄関に星条旗が掲げられていることからも容易に想像できる。彼の友人もまたイタリア系、アイルランド系という同類であり、スレスレのジョークは当時彼が受けた差別のなごりだ。そのアメリカへの強い帰属意識のせいで時代からも家族からも取り残されてしまうのは皮肉というより悲劇に近い。

ザ・アメリカ親父の主人公からはブラックコミュニティやアジア系移民は「俺たちが苦労して築いたアメリカ」にのさばって、好き放題に荒しているならず者に見えるのかもしれない。そんな主人公がモン族の一家との出会いにより、見た目や文化こそ違えど、かつての第二次大戦移民であった自分達とベトナム戦争移民のモン族が何一つ変わらないのだと分かっていく。孤独で堅物だった主人公と徐々に打ち解けていく姿には感極まる。

作中のフォード社製グラントリノは=自分や先人が築き上げた古き良き偉大なアメリカそのものであり、それを託すのは、それを受け継ぐに値する良き者達。差別はまた新たな差別を生むが、きっと良き者達のアメリカならそれを乗り越えられる。移民の国アメリカのアメリカ人なら、自分達がかつて移民であったことを思い出すことが出来れば。

イーストウッドからの力強いメッセージ、ある種の遺言めいたものを感じる傑作。