アンダーシャフト

廃市のアンダーシャフトのレビュー・感想・評価

廃市(1984年製作の映画)
3.8
水路の多いとある田舎町を舞台に、一人の大学生と、彼を取り巻く人間模様を淡々と綴った作品。
原作は大変有名な短編小説とのことですが、自分は未読です。

夏休みに卒論を書くために、知人から紹介された旧家を訪れた大学生。
見知らぬ町に来た世間知らずで無邪気な青年の言動と、彼が関わる町の人々の心の闇とのコントラスト、それに、舞台劇のようなセリフ回しが、単純な青春群像劇とは違った深みを生み出しています。

青年が町で過ごすうちに、そこに生きる男女の歪んだ切ない思いが浮き彫りになっていきます。
しかしその背景には、美しい町が実はゆるゆると朽ちていくという予感と、それを知っていてなお町と生き、もがき、諦めに悩み苦しむ人々の様子が垣間見えます。それを、セリフの所々で語られる“死”というワードが象徴的に表現しています。

青年が、自分の懐中時計が止まっているのに気づくシーン。そしてラスト、掌の中で時を刻む懐中時計を見つめるシーン。
この2つは、町での生活が未来や将来とは縁遠いもの(=彼本来の日常は止まっている)で、 町を離れる(=町での出来事が過去の一部になる)ことで、彼の普段の生活が再び動き出したことを暗示しているようにも見えます。

撮影場所となった柳川は、箱庭的な美が随所に光る素晴らしいロケーション。何気ない町角の風景や旧家内部の絶妙な陰影など、印象的な美しいカットが目を引きます。
そのせいか、退廃的というよりは、人はいろいろなことに気づかないまま大人になり、歳を重ね、死を迎えるという当たり前のことを、美しく柔らかい詩的な映像で切り取った一本だと思います。


…でも、大学生役の俳優さんは、なかなか見事な大根だよ。
(なぜ彼をキャスティングしたか、監督に激しく聞いてみたい…)