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ダウン・バイ・ローのkyonのレビュー・感想・評価

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)
4.5
ジャームッシュの映画は本当に時間を味わせてくれる…。

モノクロではじまって、愉快な音楽とともに右から左へパン、しばらくするとジャックと黒人の彼女のミドルショット、それからまたちょっとして今度はザックと白人の彼女とのミドルショット、やがて左から右へパン。

冒頭からたまらん…!

これが3作目みたいだけど、もうジャームッシュの独特な空気感が。
なんでこんなにジャームッシュの作品は幸福な時間なんだろう?って考えるとまずは「会話」のテーマというか会話そのものが映画たらしめているような気がする。


ふと他のハリウッド作品(ジャームッシュはハリウッドって感じじゃないけど)を観ながら思うのは、次の展開のための会話が多いのに対して、ジャームッシュ作品は会話そのものを映そうとしている感じがする。

『ダウン・バイ・ロー』は、
ゴロツキのジャックとラジオDJのザックがひょんなことから冤罪で刑務所に入れられてしまい、そこにイタリア人のロベルトも合流、のちに脱獄っていう筋なんだけど、なんかこの3人の会話を聞いて観てるだけで良いんだよなぁ。

それはまるで、偶然時間がある意味で手に余る状況になってしまったがゆえに、そしてこの作品では刑務所という娯楽がほぼないに等しい場所ゆえに、自分たちで勝手に楽しむしかない、この会話が素敵。

時間を、というか環境を自分たちの周りに作り出すというか。

だから、3人がある音楽を共有していて仲間意識を感じたり、I screamとicecreamをかけたギャグで盛り上がったり、ちょっとしたことでもめたり、逃げたり、助けたり…ささいな時間や行動が、映画を観ている側からすると新しく視覚や聴覚が更新されるようなリアルさがある。

あとはジャームッシュ作品って、良い意味で等身大の人間を映し出す姿勢があるような、なんかハリウッドの黄金期みたいなザ・スター!みたいな人が出てこないからこそ生まれる世界というか、やっぱりフランス映画っぽい感じもある。

人種も民族も多種多様にいて、それこそ英語が拙いボブが2人に対して対話しようとするところなんかも印象的。詩人になりたいくらいだからジャームッシュがいかに言葉に関心あるかわかるし、音楽も良いなぁ。音楽の専門的な知識はないんだけど、それでもジャームッシュの世界は音楽が身体の一部というか、愛に溢れてる感じがすごくわかる。

衣装は相変わらずセンスがあって、刑務所の制服、バックに3行で刑務所の名前があって、前身のパンツの部分にその頭文字が書いてあるのかっこよすぎない?笑

ただの刑務所の制服に、この映画のイメージが重なることでイカしてるアウトローになってしまう…。

音楽と言葉(会話)、そして対照的ななジャックとザック。

異邦人、っていうテーマでみたらロベルトはまさに2人を取り繋ぐ異邦人だったとも言える。

この作品に関して言えば、
時間を持て余して、その時間を味わうことは、かつての貴族的な世界でなくても可能だということを伝えてくれる。むしろ自分たちの時間軸を手に入れるというか、切り離すというか。

だから日常を描きながらも日常を忘れさせてくれる。
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