ツクヨミ

浮草物語のツクヨミのレビュー・感想・評価

浮草物語(1934年製作の映画)
3.2
1930年代の小津安二郎監督はサイレントでもしっかり"小津安二郎"だった。
とある田舎町に舞台一座がやってくる。その一座の座長喜八にとって町は訳ありで…
小津安二郎監督作品。amazon prime videoだと活弁付きだったのでそのまま鑑賞、サイレント映画だがやっぱり小津安二郎はいつの時代も小津安二郎だと実感できた。それは徹底している訳ではないがいく度も使われるローポジションの"小津調"によるショットだったり、劇中いくつも挿入される小道具や建物にフォーカスし構図を意識した美しきショットの数々はもはや一種の安心感さえ覚えてしまう。
そして内容からしても本作は小津安二郎監督でお馴染みの"家庭の崩壊"を描いたドラマだ。主人公の喜八は旅の一座で各地を転々としているが実は田舎に妻と息子を残してきており、今回はその田舎に巡業すると愛人にそのことがバレていざこざが起こるという話になっている。ただでさえ巡業で宙ぶらりんの喜八の家庭は愛人の怒りで家庭の危機を迎える…これは実に小津安二郎監督が得意とする家族ドラマじゃないか。喜八と妻と息子と愛人によるそれぞれ感情が激突し展開されるドラマは苦しくも見る人の心を打つ。やっぱりこの一貫したものを描く小津安二郎監督のスタイルが好きだ。
しかし今作は小津安二郎監督がまだ"小津調"を確立していないのは確かで、一座を見に来た人々を次々と映す移動撮影を行ったりとカメラワークはちょっと変わった印象を受けた。しかしまだ実験段階の小津安二郎作品もなかなか味があって良い物であろう。
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