LEONkei

憎いもののLEONkeiのレビュー・感想・評価

憎いもの(1957年製作の映画)
4.0
人間はある意味では植物だと某医学博士は言う。栄養分を口から肛門まで一本の管で繋げ完結させ、植物で言えば根から茎の関係のようでもある。

植物の栄養分の重要な要素の1つとして、有機物と無機物が組み合わさった土壌にある。

土壌にしっかりと根を張り成長していく植物の姿を見ると、つくづく俗物的な人間世界と似たものを感じる。

植物も人間も生まれ育った土壌で過ごすことが、最も生きやすくストレスの負荷も低い安息の地。

しかし様々な理由で安息の地を離れねばならない時が有り、土壌を移し替える負荷は甚大で一歩間違えれば死を招きかねない。


ではこの主人公にとって一体何が最も憎い存在だったのか…。


夜行列車に揺られ青森は弘前から東京は蔵前の問屋街へ仕入れの為に上京した男、妻を田舎へ残し生真面目な中年男は後に180度人生を狂わす最悪最低の奈落の底に突き落とされる。

慣れない東京の街に翻弄する田舎人の様を仄々描くほっこり物語と思いきや、タイトルの通り様々な布石が後半一気に回収され急転直下の恐怖の展開に度肝を抜く。

藤原鎌足の誠実さと東野英次郎の俗物根性、そして物腰が柔らかい宮口精二の口調など個性溢れる昭和感がいい。


24時間眠らない欲望と哀しみが渦巻き凡ゆる情が混在する東京の街は、免疫力がない田舎人にとっては天国とも地獄ともなる精神崩壊の危険地帯。

生まれ育った環境と価値観の相違に戸惑いながらも都会の渦に足元を掬われそうになりながら耐え凌ぐ人間の弱さと脆さ。

誰が悪くて、何が悪いのか…。

欲望と欲望の摩擦は人間性を試され田舎ではあり得ない、凡ゆる人間のエゴが凝縮されたメトロポリス。

田舎人にとっては欲望の理想郷に思えるかも知れないが、東京が崩れゆくバベルの塔だとも知らず故郷の理想が夢だと知る。

しかしそれを築き上げたのは地方からやってきた田舎人で、元から居る東京人は遠目から静観することしかできない。

生まれ育った土壌は何処の街へ行っても泥は拭えないのが生き物の掟、と言うことを人々は忘れているのか隠して生きているのか。

流離の岸の迷い人は今も昔も変わらず東京の夜道を歩いている..★,
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