もん

浮草のもんのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
4.5
冒頭の待合室のシーン。
今度街にやってくる旅役者のうわさ話に興じる地元のひとたち。
抑揚のないゆったりとした会話ながら妙に生々しくどこかコミカルに感じる。
これは面白くなるぞと確信。
旅役者が到着し町を派手に練り歩きながら公演の宣伝をして回る。
最近の映画であれば必要な情報を与えてしまえばすぐ次のシーンへと変わってしまいそうだが、
この映画では丁寧に描かれ、生き生きとした旅役者と地元の人々が映し出される。
それから映画らしい展開。
主人公の鴈治郎は本当に素晴らしかった。
また杉村春子は堪えることも多かったであろうその人生の中で息子とその父親への愛情を片時も忘れる事なく大切に生きていたことが感じられる演技であった。
若い頃の若尾文子を楽しみにしてみたが、ベテランの役者の演技の凄さに度肝を抜かれてしまった。
「いつも今と同じ気持ちで家を出て行きなさった」という切ないセリフのあとのシーン。
どこか陽気に、どこか寄る辺なく、悲しいほど品のない姿で、電車の中で酒を飲みながら旅役者の業に流されていく。
叔父の勧めで見たとても素晴らしい映画。
もん

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