みおこし

エルマー・ガントリー/魅せられた男のみおこしのレビュー・感想・評価

3.5
子供にはあんまり見せないでね〜という文言が映画の冒頭テロップで流れるくらいには、公開当時物議を醸した一本。これでオスカーを獲得したバート・ランカスターの代表作でもあります。

何がマズイのかと言うと、キリスト教倫理観をかなりストレートに、綺麗事なしに描いているから。
私は全然宗教に詳しくないのですが、「信仰復帰運動」をテーマにしているらしい。
要はアメリカ人のほとんどがクリスチャンであるといっても、イエスに対して皆が同じくらいの厚い信仰心を持っているとは限らないわけで。クリスチャンとして教会が求める本当のあり方とは、そしてそれが正しいのか...といったジレンマを1人の男、エルマー・ガントリーの半生を軸に描いています。

酒浸りな遊び人だったガントリーは、周りのことを顧みずに生きてきたが、とある伝道師の女性と出会ったことにより運命の歯車が狂っていくことに。
彼女に気に入られたいがために、持ち前の話術とカリスマ性で巧みに信者の心を掴んでいくガントリー。はじめは生半可な気持ちで始めたものの、彼の中にも「信仰心」のような、何か熱いものが芽生えて来る。
この一見誰もが模範としたがるような清く正しいクリスチャンの過去や、心の奥底に潜むものは本当に美しいものなのか。
ガントリーの過去を知る者はそれを疑い、そしていつしか嫉妬心の塊になってゆく。

宗教をテーマにした映画はたくさんあれど、この時代にある意味絶対に触れてはならないタブーのようなテーマにチャレンジしたスタッフ陣に脱帽。
宗教が人々に与える希望のみならず、信仰することによって生まれる弊害や恐怖も描いているので、それはそれはリアリティに溢れた一本になっています。
アンドレ・プレヴィンによる不思議なテンポの音楽とともに展開される、嘘や裏切りで固められたガントリーをはじめとする人々の生き様。観終わった後は、色んなものやことへの猜疑心でいっぱいになるはず...。
そして、元来困っている人々を救うはずだった宗教をビジネスにしてお金を稼いでいる人々もいるという皮肉。うーん、深い。

一番印象的だったのは、信者を増やしたり勢力を広げるために話し合うシーン。「当初は13人しか信者はいなかったが、果たしてそれはキリスト教にとって失敗だったか」というようなセリフがあって。本作でガントリーたちが目指していた原点に回帰するとはこのことだなーと、ハッとしました。

ラストは衝撃的。クリスチャンではない私でも、「神様って本当は残酷なのかも」と目を背けずにいられない展開が待っています。
古い作品ですが、かなりパンチの効いた社会派の一本。
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