津次郎

エルマー・ガントリー/魅せられた男の津次郎のレビュー・感想・評価

4.3
バートランカスターという俳優が好きです。監督に好かれ名画に恵まれた人でした。地上より永遠にに出ていますし、フランケンハイマーやアルドリッチの男臭さを体現しました。かと思えばヴィスコンティにも招聘されました。

美男といえば美男ですが、線は太い人です。野太いというほうが適切です。裕福な印象はありませんが、何でも対処できる甲斐性があり、善人ですが悪人の知り合いがいます。見上げるほどの偉丈夫で粗野ですが、思いやりがあり賢明でもあります。

畢竟何でもできました。軍人もインディアンもガンマンも。囚人や貴族や老人にもなりました。
ここでは流浪のセールスマンでした。口から先にうまれたごとくによくしゃべります。その日暮らしですが人たらしで直向きなところもあります。ジョークを飛ばすと自分も溜まらず笑います。そのとき大きな体躯を仰向きます。デカい男が明解な大声と抑揚で語り笑いながら、身体を躍動させます。

それを見ると山猫や家族の肖像にバートランカスターを招いた故由がなんとなくにせよ呑み込めます。なぜ裕福な印象のない、土臭く荒くれな大男がイタリアの貴族を演じたのか、その細かい経緯はどこかの解説に任せるにしても、バートランカスターの出演映画を見ているとスクリーン越しとはいえバートランカスターの人間性が伝わってくるのです。
それが最も無条件に伝わってきたのがエルマーガントリーでした。

146分ですがあたかも長い叙事詩のように天と地を駆け巡ります。ドラマチックかつエモーショナルです。文化人が自己映画ベストをやるとかならず市民ケーンですが、私のばあいそこにエルマーガントリーが来ると思います。

遺作となるフィールドオブドリームズでランカスターの演じるMoonlight Grahamが跨いだら戻れないラインを跨ぐシーンがあります。そのとき、物語内の喫緊の状況と同時に、バートランカスターの役者人生が走馬灯のごとく巡るのです。私にとってあれは二重の涙でした。
津次郎

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