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HANA-BIのヨウのレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
4.9
人の一生とは花火のようなものである。パッと精彩を放つ刹那的な生。闇夜と共に襲い来る死。誰にも変えられない絶対的な摂理。じゃあそれを前にしてただ嘆くのか?バカ野郎。たとえ死が運命付けられようと残された生を全細胞で味わい尽くしてやろうじゃねえか。絶望の深淵に立たされた者たちが雄々しく謳う至高の人生賛歌。

同僚の殉死。余命幾ばくもない妻。どうしようもない悲劇によって朽ちてしまった心。主人公西の境遇に息が苦しくなるけれども突発的に飛び散る血や目を離すことすら憚られる美のシークエンスが不思議なカタルシスを与える。そして西と同じくらい絶望に見舞われた堀部の存在。身体が不自由となり家族に見放される。大杉漣演じるその切なる演技と虚な表情が凄まじい。生きながらにして死んでいるような2人の男の並々ならぬ思いが肌身で感じられ嗚咽が催される。”死”に囚われた者たちの発する”生”の力。何と残酷で美しいのだろうか。

暴力の渦中で染み渡る感動。痛々しい赤と情緒的なキタノブルー。あの海が全てを物語っているようだ。涕涙の後の衝撃。心の琴線に触れる久石譲の音楽が至高のシナジーを成し永久に残響が続く。歴史上これほどまでに感情を揺さぶられる映画が存在したであろうか。世界のキタノが送る邦画の最高到達点。ソナチネに並ぶ別格級の出来であった。何故北野武は完璧な映画を作り続けることができるのだろう。頭が上がらない。印象的な絵の数々が意味するところは何か。様々な考えが頭をよぎる。自分なりの解釈を確立させながら生涯に渡ってその素晴らしさを噛み締めていきたい一本である。

2022年2月13日
国立映画アーカイヴにて劇場鑑賞

突如襲う不幸
浮かび上がる”絶望”の二文字
それでも掴み取ろうとする最後の”希望”

“死”の淵に立たされた者たちがパッと輝く花火の如く”生”の不滅を証明する

スクリーンいっぱいに映された真に迫る表情
久石譲の哀しき劇伴

「ありがとう、ごめんね」

感無量です…
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