半兵衛

香華 前後篇の半兵衛のレビュー・感想・評価

香華 前後篇(1964年製作の映画)
4.2
三時間以上の大作なのに、主人公の母娘によるやかましくも面白い口喧嘩と家族やその周囲で起こるドラマをバランスよく配置しているので飽きることなく鑑賞することが出来た。ドラマの方も母(乙羽信子)、娘(岡田茉莉子)ともに生まれながらにして男により犠牲になった家庭におり、父が存在しないという特殊な環境で育ったため男の愛しかたを知らず、母は男を遍歴して娘は一人の男を一途に愛するもお互い水商売の世界を渡り歩いたためになかなか幸せというものが掴めない様が圧巻。そこには悲劇というより、男性社会に食い物にされてきた女性たちがそれでも生きていく姿がありその逞しくも儚い彼女たちの生きざまに心を強く揺さぶられた。

岡田茉莉子が母親に語った「お母さんは三度も子供を産んだのに、私は一回も出来なかった」という台詞や主人公の祖母である田中絹代の過去、たびたび登場する男が女性=出産のための道具に結びつける発想の台詞や岡田以外の女性が妊娠する展開などが、男社会に女性に強制しているものを容赦なく見せつける。そして子供を出産したのにその出自と性格のため男性社会から棄てられた乙羽と子供を産まないために普通の家庭というコミュニティから省かれる岡田が日本的社会の犠牲になる様を正面から逃げることなく描く有吉佐和子と木下恵介監督監督の視点の鋭さに男性としては自分の心のうちにある母=女性という甘えを突かれているようでドキッとする。

20代から60代までそれぞれの年齢を完璧に演じる岡田茉莉子に息を呑む、あと廊下を芸者の服装で着飾っている状態で体を揺らさず小走りする人並外れた運動神経が凄い。多情で自由奔放ながら娘の岡田を人一倍愛する乙羽信子も見事。

舞台なのでシーンごとのシークエンスが劇っぽいところがあり気になるが、移動撮影や奥行きを生かしたセットなどで映画ならではの空間を形成して映画を鑑賞している感覚にさせるのが流石。特に自分をふった加藤剛を岡田が追いかけていく移動のシーンは印象的。

関東大震災や東京大空襲によるスペクタクルも見所。

「果たして主人公は男性社会の構造から逃れられるか?」という含みをもたしたラストが素晴らしい。

あと冒頭のみの登場である田中絹代の演技もインパクトを与えられた、溝口健二の諸作品などで男性社会に踏みにじられてきた田中絹代のその後のような悲惨な結末。
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