緑

春婦傳/春婦伝の緑のネタバレレビュー・内容・結末

春婦傳/春婦伝(1965年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

超絶情が深く、
超絶逞しい女が爆死する話。
「マリア・ブラウンの結婚」でも
超絶逞しい女が爆死していたことを
思い出した。

天津の娼館で働いていた
日本人娼婦の野川由美子が
惚れ込んだ既婚客と揉めて
相手の舌を噛んで怪我をさせ、
お払い箱になったのか
自らの意思かはわからないが、
従軍慰安婦になることに。
副官に気に入られるも
その副官の付き人みたいな
童貞の川地民夫が気になり、
犯そうとして拒まれるも
後日なんやかんやで懇ろに。

戦いに赴いた川地を心配して
銃撃が止まない戦地を駆けてゆく
野川が強い!(褒めてる)
あんだけ弾が飛び交う中で
一発も当たらないとか、
全ての兵士は野川を同伴させてりゃ
無敵なんじゃね? レベル。
しかし川地は野川同伴ではなかったので
撃たれて瀕死の状態に。
中国軍に命を救われ捕虜となるよう諭され、
従おうと言う野川と断固争う川地。
中国に寝返った日本兵も
捕虜になることを勧めにくるが
川地は全力で拒否。
野川が川内を諭しているうちに
日本軍が攻めてきたからと
基地的なところを捨てて出て行く中国軍。
去って行く中国兵たちを見ながら
川地に「行っちゃう!」と叫ぶ野川。
性を仕事にしている女に
性的な意味ではなく「いっちゃう」と
言わせる脚本がおもしろい。

その後通りがかった日本軍に救出されるも
川地は軍法会議にかけられることに。
軍法会議=死。
休んでいいと言われるも
「疲れたいのよ」と働く野川。
性を仕事にしている女に
性的な意味ではなく「つかれたい」と
言わせる脚本もおもしろい。
囚われた先に面会に来た野川から
明日移送されると聞いて手榴弾を
持ってくるよう頼む川地。
副官に会いにきたという名目で
軍人たちの宿舎に潜り込み、
無造作に置かれている手榴弾を
見つけて盗み出す野川。
しかし軍法会議にかけると
小隊の成績が下がるということで、
会議のための移送と見せかけて
道中で殺すことにした上層部。
トラックで移送される川地を見つけ、
必死で追うもさすがに追いつけない野川。
人気のない荒涼とした山間で川地を下ろし、
斬りつけようとするも川地の目力に動けず、
部下に撃つよう命ずるも誰も従わず。
そうよな、誰もわざわざ同僚を
殺したくなんかしないよな。

敵軍襲撃でまた舞い戻り野川と川地が再会。
どさくさに紛れて逃げるかと思いきや、
野川に渡された手榴弾で
川地は「天皇陛下万歳!」と唱えて自殺。
必死に止めるが覆さない川地に折れて
とうとう「私も死ぬ!」と
川地に抱きついて同時に爆死。
川地の死は普通の戦死として処理された。
野川の死に朝鮮人慰安婦役の
初井言榮が日本人は死にたがり、
生きなきゃという旨を呟き
立ち去って終劇。

鈴木清順といえば
サイケなまでの鮮やかな色彩だが、
本作はモノクロ。
しかしその中でも光と影を
強調した表現が鮮やかで、
鈴木清順ならではの画作りを感じた。
スローや止め画の使い方も
おもしろかった。

この尺とは思えない密度のストーリー。
慰安婦の話でベッドシーンもあるし
野川のヌードもあるが
エロスは徹底的に排除されていて、
戦争の愚かさと男性たちの滑稽さと虚しさ、
戦争に於ける女性たちの無力さと逞しさが
十分に描かれていた。
ここにエロスが入るのは
野暮というものだろう。

途中で台詞飛びがあったのが残念。

本当は本作の前の上映作品も
鑑賞予定だったが、
3分遅刻でチケット売ってもらえず。
神保町シアター、厳しい!
緑