似太郎

人生劇場 青春・愛欲・残侠篇の似太郎のレビュー・感想・評価

4.7
尾崎士郎原作の『人生劇場』は何度も東映で映画化されてきたが、個人的に内田吐夢が手掛けた文芸映画風の『飛車角と吉良常』に思い入れが強いおれ。

松竹で撮った加藤泰による本作もどちらかと言えばやくざ映画というより文芸映画的側面が強く、オールスターキャストの安っぽいセットの中で展開される男たち+女たちの「青春の一ページ」といった趣きが強い作。長尺なのに飽きさせない独特の粘ばっこさがある。

瑞々しい青年役の竹脇無我と無骨な田宮二郎が特に良かった。キーパーソンの渡哲也はいつもの渡哲也といった感じだけど。(笑)
美空ひばりの歌うテーマ曲が正しく浪花節。カラオケで歌いたくなる。

共同脚本は野村芳太郎と三村晴彦。いつもの加藤泰作品らしくしつこいローアングルや長回し、クローズアップが堪能できるこの監督らしい大正ロマンチシズムに溢れた任侠映画の名編となっている。たしかにご都合主義的なシナリオで残念ではあるが、画面から発散される気迫は正しく本物である。

ラストでの海辺の決闘シーンが白眉で『沓掛時次郎・遊侠一匹』や『日本侠花伝』と併せて観てほしい殺気に満ちたクライマックスになっている。男と女の色気。または侠気。博徒同士の結束。大正期のヤクザという生き方は何と渋く潔く、カッコ良いのだろう。加藤泰の美学が炸裂した一編。🌊
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