とうがらし

マダムと女房のとうがらしのレビュー・感想・評価

マダムと女房(1931年製作の映画)
3.3
日本初の全編トーキーで、ほのぼのホームコメディ映画。
音に対する並々ならぬ挑戦と努力の跡。
トーキー初期の中でも、録音状態は非常に良好。

映画の第一声は、
誤)田中絹代の「あなたぁ」
正)横尾泥海男の「ん~。このぐらい描けりゃ、今年の帝展も大丈夫だな」

主役(渡辺篤)でもヒロイン(田中絹代)でもなく、脇役が第一声というは意外。
しかも、その役柄が画家。
主役が画家とケンカするが
”映画を絵画と同等、もしくは、それ以上に永続性のある芸術へ引き上げる!”
といった意気込みにも思えて感慨深い。

「あなたぁ」は、映画の第一声ではないが、田中絹代の第一声。
画面外から聞こえてくるというのがミソ。
トーキーだからこその演出。
サイレント映画では、音を認知するには、音の所在と動きを映像で明示しなければいけなかった。
目に見えない”自然や近隣の騒音”。
まさしく、サイレント映画ではなし得なかったテーマ。
音を得たことで、”沈黙”にも意味が生まれた。
田中絹代は当時21歳。
すでに40代前後の貫禄。
ジャズのマダムを、”近頃のエロ100%”と評す(笑)

トーキー映画は、映像と音声が同期している映画。
今では当たり前だからトーキー(Talkie)と呼ぶことはなくなったが、当時主流のサイレント映画と区別して、新しい技術の売り文句として使われていた。
トーキング・ピクチャーの略。
ムービー(Movie)は、現在日本では”映画”や”動画”の意。
ムービング・ピクチャーの略で、トーキーはムービーにならった呼称。
すなわち、映画は、声を獲得して動画からステップアップした芸術ということになる。
今でも海外では、映画のことを、ムービーではなく、フィルム(Film)。
映画監督のことを、ムービーメイカーではなく、フィルムメーカーと呼んで、ムービーと棲み分けている。
フィルムからデジタルへの移行と、インターネットの普及で、映画が再び”動画”と結びつきを強めて、映画の定義論争が再熱しているのはなんとも皮肉な話…。
それを芸術の進化とみるか、芸術の退化とみるか。
これから20~30年後に分かってくるかもしれない。
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