ケンヤム

裸の島のケンヤムのレビュー・感想・評価

裸の島(1960年製作の映画)
4.8
私たちが忘れかけた本来の人間の生き方を、思い出させてくれる映画。

人生に本来、暇な時間などあるはずがない。
生きていくために、畑を耕し、水を運び、水をやり、収穫し、それを食す。
そこに、スマホゲームやテレビが入ってくる余地はない。それどころか、人生とはなんなのか?などという疑問さえ入る余地がない。

私たち現代人は、こういう映画を見るとついついバカにしがちだ。
「所詮映画の話じゃないか」という具合に。

本当にそうだろうか。
私たちは、食べ物をなにもせずとも手に入る環境にいる。
それによって、暇な時間を手に入れた。
暇な時間を持て余している。
学校に行っても、会社に行っても、余りある時間を持て余している。
果たして、こんな生き方が正しくて有意義な生き方と本当に言えるだろうか。
映画の中の家族たちの方が、よっぽど人間らしい生活を送っているように私には感じられた。

一つ、この映画の家族たちと私たちの共通点をあげるとすれば「人生に劇的なことはあまり起こらない」ということだと思う。
現代人は、暇を持て余しているが故に、人生に起こる劇的な瞬間を今か今かと待っている。
しかし、ほとんどの人間にはその瞬間は残念ながら訪れない。
訪れる人がいるとすれば、来る日も来る日も畑を耕すようなしんどい思いをした人にしか訪れない。
その過程には、嫌なことがたくさん起こる。
絶望的なことがたくさん起こる。
それでも、私たちはあの夫婦のように、黙って畑を耕し続けていくしかないのだ。
運命に抗うのでもなく、かといって、従うのでもなく、運命に身を委ねるような気持ちで生きていくしかない。

本当の意味での、勇気を教えてくれる映画に出会った。
ケンヤム

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