Joker

トゥモロー・ワールドのJokerのネタバレレビュー・内容・結末

トゥモロー・ワールド(2006年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

日本では何故か評価が低いが、個人的には良い映画だと思った。

まず素晴らしいのは長回しによる撮影。普通ロングテイクは長いほど退屈になりがちだが、巧みなカメラワークで必要な情報を次々に写していき、緊迫する状況をありのまま写して退屈するどころか観る人を釘付けにさせ緊張感を終始保ったこの撮影方法には感銘を受けた。

今作を低くく評価している人は、長回しによる臨場感ある緊迫した映像に目を取られて内容を掴みとることが出来なかったのだと思う。

内容は大きく分けて2つあったと思う。
1つは「生」の大切さ。
人類は子供が作れなくなり、国は荒れ、人々は生きる意味を失っていた。劇中で女性が「かつては子供の声が聞こえていたけど、今はもう活気が無くなった」と言うように、画面からは活力が感じられない。それを強調するかのように画面にはお年寄りの顔が多く写るように感じた。
映画の中ではこれでもかと言うほど大量に人が殺されていく。それが当たり前と言うかのように簡単に人が死んでいく。ロングテイクにより人が撃たれたり、血を流したり、死んでいく様子が生々しく映し出されていた。だからこそ、より生まれた赤ちゃんの大切さが強調されると思う。赤ちゃんがあげる泣き声が生き生きさに満ち溢れ、撃ち合いを一時的に止める力さえ持っていたと思う。ディストピア映画には世界が荒む様々な理由があるが、その中でもあえて子供が生まれないことを理由に選んだのは、映画を通して「生」の大切さ、「生」が持つ力を表したかったのだと思った。

2つ目は、ジャスパーがキーたちに語る「信念」と「偶然」について。(映画の訳では何故か「運命」と訳されていたが”Chance”は真逆の偶然を意味すると思う)ジャスパーはセオの「信念」は「偶然」に過去に破れたと言う。結局は人生の偶然性によって信念は意味を失うと。セオは多くの人の中から偶然キーをイギリスに連れてくる役割を与えられたように思われるが、そもそも彼が依頼してきたジュリアンに出会ったことになったのは彼の「世界を変えたい」という信念によってであり、彼女が彼を唯一信頼するのも彼の信念を強く信じているからである。そんな彼はキーが妊娠していることを知り、生きる希望を見つけた時に彼女を守ることが自分の「信念」だと実感する。様々な困難や激戦を潜り抜ける中で正直彼は死んでもおかしくなかったと思う。FISHのメンバーらに見つけられ殺されそうになるが、すんでの所で軍隊の出現によって命を救われる。セオの「信念」を貫いて行ってきた行動が「偶然」をも味方につけたように感じた。そして彼はキーを目的の船まで導いた所で生き絶えてしまう。いつ死んでもおかしくない中彼は最後まで自分の「信念」を貫いた。彼の「信念」が今度は「偶然」に勝った瞬間だと思う。
彼の信念によって始まり、彼の信念を全うすることによって終わったこの物語はそう考えれば、彼はキーを守る(偶然とは反対の)運命だったのだと思った。彼の「世界を救いたい」という「信念」そのものが彼の「運命」だったのだ。彼がジュリアンと出会い、重要な許可書を発行する人の従兄弟なのも全て最初から運命だったと。荒れて希望の光が無い世界に、生まれた1つの希望の光を守るために神からこの世に遣わされた存在なんだと思う。だから「キーを無事に守り送り届ける」という使命を果たした時に息絶えるのも、送り届ける先が「船」というところにも、そう言う運命的な意味がこの作品にあるように感じた。

巧みなカメラワークで「生」の重たさと1人の男の「信念」と「運命」を描いたこの作品はクライヴオーウェンやマイケルケインを始めとした役者の素晴らしい演技もあり他に類を見ず素晴らしい作品だと感じた。

死ぬまでに観ないといけない映画の一つ。
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