KY

エレメント・オブ・クライムのKYのレビュー・感想・評価

4.2
ラース・フォン・トリアー監督の長編デビュー作。ヨーロッパ3部作第1弾。

主人公の警部が恩師の著書『犯罪の原理』で提唱された哲学『犯罪者の視点に立って事件を捉え解決に導く』を殺人事件の解決に使い、のめり込んでいくストーリー。

大学1年の時レンタルして見たら速攻寝てそのまま返却した記憶があるけど、filmarksの『レビューを書く』という行為のお陰でダルい映画に耐性できてきたのでチャレンジしてみた。

実はわかりやすいストーリーだった。物語の動機も事件解決だし、オチも含めて主人公がストーリーを全部催眠術で喋ってた。

後発作『ダンサーインザダーク』や『ドッグヴィル』の様な観客の神経を逆なでしてからの圧倒的カタルシスはないけど、所々滑稽さに笑える箇所もあったり、テーマ性だったり、らしさはこの頃からあった。

殺人犯を真似るという行為は一見特殊なものに見えがちだけど、これは広く見れば『ヨーロッパ人は人を殺し侵略で歴史を築いてきた。先人の歴史や哲学を学び生きている自分たちも殺人犯になる素質がある』というテーマに繋がる。ある意味原罪的要素が大きく、後発作でも向き合うキリスト教的要素がこの頃から出ていた。

個人的に面白かったのは『主人公が犯人の真似をすればするほど自分の心の根底の奥さんとの関係性の悩みにぶつかる』という側面。自分の根底を掘り下げなければならないゆえに狂気が生まれるというのが腑に落ちる。

黄金色の画面の質感、最初は見るのに苦労したけど徐々にその効果が効いてくる。全編常に漂う犯罪の匂いはもちろん、催眠術での回想ゆえ重要なものだけ光るトリップ感、暗すぎて顔認識しずらいゆえ主人公なのか犯人なのか意図的に『犯罪の原理』的な混乱を与える要素、主人公の心の根底にあるものが逃げても解決できない場所の無意味性。

何より黄金の人物シルエットを見るのに慣れてくると登場人物の入退場の仕方だったり身体一つ一つの動かし方に注力して見るようになるけど、カメラワークなど含めてトリッキーで普通に面白かった。自分の身近に例えれば、小さいキャパのクラブ箱だと顔は認識できなくても踊り方で『この人前も来てたよな』と感じたり、人の踊り方を見て楽しむ事があるけどそれに近いかも。

一方、大学時の自分が寝たのはそんな偏執狂的に演出が凝りまくって技巧的すぎてハードルが高かったからだとも思った。

少なくとも『奇跡の海』以降のラース作品でこの作品ほど技術面凝ってる映画はない。悪く言えば、捜査テクニックに溺れた主人公や恩師はまさに凝った演出に溺れた今作の監督自身でもある気がした。
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