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歩いても 歩いてものshiroiwaのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
4.0
〝家族〟というものになかば取り憑かれた是枝監督の作品。

序盤、複雑な家族構成を説明臭さなしで見事に説明。
大した事件もなく、とある里帰りの一日を描いているが、大したことがないことがリアルで、日本の〝平均的な里帰り〟はこんな感じじゃないかと思わせる。

子どもが少し物語を動かす役割を担っていて、監督は幼少期の記憶を大切にしているのだろうと思った。あるいは思春期の頃の記憶を。

監督の感性と俳優の感性が見事に融合して、作品に味わいを加えている。映画というものは便利なもので、120分あればほとんどの場合、120分で物事が解決する。色々言いたいことや考えていることを抱えている人物たちが登場するが、この作品では何か解決する(例えばギクシャクしていた父子が、お互いを理解して泣きながら抱き合うとか)するわけではない。観た人、それぞれで見つけて貰えばいい、そんな感じだ。

この作品は樹木希林さんがいたことが大きい。是枝作品では、またしても。

演技となると女性のほうが多彩で繊細な感性を見せる。男の俳優が劣っているという話ではない。ひとつの役で見せる感情の幅を、女性のほうがより感じさせる。

例えると、宇多田ヒカルとか椎名林檎とかいい声だと思う。
そのいい声のなかに、さらに様々な感情や表情を感じる、というような話。
樹木希林さんの演技は鮮烈だ。




【以下ネタバレ、追記】

是枝監督、画作りが上手い。
お墓参りの帰り道、路上をひらひら舞う蝶々の撮り方とか良いなと思う。
これ見よがしじゃない。いちばん綺麗なシーンになっていて、題名は家族で歩いてるこの場面から来たのかなと。
ロケーションも良かったですねえ。

何も起こらない映画と言われているが、強調されていないだけで多くのことが起こっている。
息子の運転するクルマに乗りたいと言う母親(樹木希林)を、東京だから必要ないよなあと断る息子(阿部寛)。
最後の語りでそのことに触れ、お墓参りしたあと家族でクルマに乗り、帰ります。

親になったからクルマを買ったのか。
ぼんやり母親のことも考えていたんじゃないかと窺わせる。

小学生の頃に書いた作文を、いちどは破り捨てようとするが、あとでこっそりテープで補修する。地味だが、変化は起きている。

蝶々絡みで、樹木希林さんの演技が本当に凄かった。
母親の子に対する深い情念。
木刀での練習を観ていたら、いきなりそれが真剣に変わっていたような。

急にホラーに見えて、身を削って子を産む母親というのは、複雑な生き物なのだと痛感した。

是枝監督は家族という概念に取り憑かれている。それしか描かないのが凄い。よくまあ一個のネタで何本も脚本を書くものだ。そのどれもが面白い。
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