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恋するシャンソンのtakのレビュー・感想・評価

恋するシャンソン(1997年製作の映画)
3.3
「恋するシャンソン」は、シャンソンやフレンチポップスが散りばめられた映画。それらは場面を盛り上げるために既成曲が流れるような使い方ではない。台詞の一部になっているのだ。まずは映画の冒頭。ヒトラーからパリを焼き払う命令を受けたドイツ人将校が、突然綺麗な声で歌い出す。美しいパリの街を焼き払うことなんかできない。そう思ったであろう将校が高らかに歌い上げるのは、ジョセフィン・ベーカーの「二つの愛」。
♪私は愛するものがふたつあるの/それは故郷とそしてパリ

この映画が面白いのは、演じる役者が自分の声で歌うのではなく、オリジナルの歌の断片が台詞として挿入されること。いかつい男優が突然女性の声で歌ったり、もちろんその逆も。曲はあくまで断片として流れるので、唐突さとアンバランスな感じが面白い。医者にかかる登場人物の一人が、症状を述べる代わりに「体の弱い僕」と言うコミックソングを歌う。相手を勇気づけようと拳を握った女性はフランス・ギャルの「レジスト」を歌う。不動産業を営むプレイボーイはジャック・デュトロンの「僕は女の子たちが好き」。妻に別れを切り出そうとする夫が口ずさむのはセルジュ・ゲンスブールの「手切れ」。オリジナルを知らずとも選曲がいい、と思えるのだがサントラでそれぞれの曲をフルサイズで聴くと選んだ理由がよくわかる。ダリダとアラン・ドロンの「甘い囁き」も出てくるのだが、サントラ未収録が残念。

フランス映画らしい恋の群像劇。それをあの静寂の映画「去年マリエンバートで」を撮ったアラン・レネが撮ることが、観る前から不思議で仕方がなかった。僕はレネ作品をあまり観ていないが、敢えて言うならば遠景でストーリーを描いているところが共通点かと。皿の積み重なった不思議なオブジェがある広場を見下ろす借家のバルコニー。上から見る風景とそこで小さく動く人。群像劇の面白さは、観客である僕らが多くの登場人物とそれぞれの交錯する思いを遠くから見守っているようなもの。それは「マリエンバート」で城の中庭で位置を変え続ける男女を見つめ続ける遠景とどこか似ている。

ともかく音楽と恋模様を楽しもう。
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