チャンドラー

おもひでぽろぽろのチャンドラーのレビュー・感想・評価

おもひでぽろぽろ(1991年製作の映画)
4.1
20代。
それは、幼虫から一人前になったという幻想を抱く時期。しかし、実態は成虫になりきれない不恰好なさなぎ。そんな情けない事実をひっそり教えてくれるのは、幼虫の頃の記憶。
少し突き放した態度で挿入される小学校の頃のエピソードがどれも覚えのあるものばかり。そのエピソードが綺麗に現在の対句として機能している脚本は見事。エンディングの気持ちのいい切なさには、いつも涙を誘われる。

おそらくアニメ史上最も写実的な作品だと思われる。男鹿の緻密な美術に、頬の筋肉まで描く妥協のない作画。それゆえ、追憶部分の抜けた作画が正しく追憶として対比的に描かれる。移動カメラが難しいアニメでは、小津やタルコフスキーのように、固定カメラやスライドカメラを用いた一種の様式美を確立できる分野だったはず。もっとも、CG技術も成長したため、高畑はその後「線」という日本画の原点に立ちかえるのだが。
音楽はタイミングも選曲もどれも的確で、高畑の耳は久石を見出しただけのものはある。
演技作画編集、どれをとっても自然で美しく、溝口のそれを想起される。宮崎が黒澤を、庵野が深作を連想させるように。

長々書いたが、ジブリの中でも大好きな作品。