ミミック

残菊物語のミミックのレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
3.5
歌舞伎の御曹司・菊之助と女中・お徳の身分違いの悲恋と菊之助の成長を描く。

最近は復刻版やリマスターなどで何十年も前の作品も綺麗な映像で見ることに馴れた中で、今回見たレンタル版は粗い画質や音声、字幕なしとなかなか辛い。加えて特徴的な長回しでのワンシーンの多用は見る方にかなりの集中力を要する。

1回目は流して見てしまったので粗筋を入れて再度視聴すると、長回しのシーンの意図が見えてくる。

お徳が菊之助に芝居が下手だと打ち明けるシーン、台所でスイカを食べながら菊之助が感謝を述べるなどからは二人の距離が縮まる微妙な心の揺れが伝わる。
菊之助がお菊への告白シーンで大きくなる太鼓の音色で盛り上がる気分、家族の反対をよそに一人お菊をかばう菊之助の熱い想いなども長回しによってより強く伝わった。

親父の死をきっかけに旅芸人になって4年、劇団の金を持ち逃げされて芝居小屋が女相撲部屋に。流浪の修行旅の末、役者としての腕も上がる菊之助。舞台の奈落で菊之助の芝居の成功を祈りながらそわそわするお徳のいじらしいこと。

お徳の家の軒先にはたくさん咲き誇る菊の花が、最期の病床のシーンの窓際に置かれた鉢にはひとつも咲いていないのが切ない。

お徳の何て言ったらいいか、か弱い歌舞伎の女形のような口調があまりない喋り方で印象に残る。それゆえ布団の中から菊之助に語りかけるラストの長回しがより多くの涙を誘う。
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