残菊物語の作品情報・感想・評価

「残菊物語」に投稿された感想・評価

歌舞伎の御曹司・菊之助と女中・お徳の身分違いの悲恋と菊之助の成長を描く。

最近は復刻版やリマスターなどで何十年も前の作品も綺麗な映像で見ることに馴れた中で、今回見たレンタル版は粗い画質や音声、字幕なしとなかなか辛い。加えて特徴的な長回しでのワンシーンの多用は見る方にかなりの集中力を要する。

1回目は流して見てしまったので粗筋を入れて再度視聴すると、長回しのシーンの意図が見えてくる。

お徳が菊之助に芝居が下手だと打ち明けるシーン、台所でスイカを食べながら菊之助が感謝を述べるなどからは二人の距離が縮まる微妙な心の揺れが伝わる。
菊之助がお菊への告白シーンで大きくなる太鼓の音色で盛り上がる気分、家族の反対をよそに一人お菊をかばう菊之助の熱い想いなども長回しによってより強く伝わった。

親父の死をきっかけに旅芸人になって4年、劇団の金を持ち逃げされて芝居小屋が女相撲部屋に。流浪の修行旅の末、役者としての腕も上がる菊之助。舞台の奈落で菊之助の芝居の成功を祈りながらそわそわするお徳のいじらしいこと。

お徳の家の軒先にはたくさん咲き誇る菊の花が、最期の病床のシーンの窓際に置かれた鉢にはひとつも咲いていないのが切ない。

お徳の何て言ったらいいか、か弱い歌舞伎の女形のような口調があまりない喋り方で印象に残る。それゆえ布団の中から菊之助に語りかけるラストの長回しがより多くの涙を誘う。
あまりに正しいお辞儀。
列車のシーンの長回しはあまりに美しい。
屋根の上からの撮影は菊とお徳を覗き見してるみたいだった。
粋とか奥ゆかしさといったものが一貫して感じられ、自然と背筋が伸びる。
例えば本作は稀有な"うちわ"映画だと思うのだけれど、自分以外のものを仰ぐ所作の美しさにみとれます。ふたり歩く夜道、艶やかな長まわしの中、買い求めた風鈴を鳴らすのにうちわで風を立てるとか。また終盤、うつむいて寝床に向けうちわを仰ぐ男。必ずしもその場に必要な人物ではないけれど、その肩の震えが映るだけで胸が詰まってしまった。すばらしいと思う。
ほかに好きなのは序盤、お徳がかんざしを抜いてスイカの種を取ってあげるところ。これはなかなか色っぽい。機会があればやってみよう(笑)
菊之助とお徳の体が触れあうことはほとんどないのだけれど、お徳の慈しみのこもった声や舞台裏で一心に祈る姿、そんな慎ましやかな描写がほのかに官能的だ。

振り返ると心底幸せだったのは彼女の方だったのではないかな…と思う。与えられる愛を終始望んだ菊之助よりも。彼女は一生涯持ち続けた望みを叶えたのだから。
何度も鼻をかむほど泣いたのはひさしぶり。
川沿いを歩くお徳との初邂逅ショットを見るだけでこの人がヒロインだとわかるし、本心を語っているのもわかる。絶対的な真実がショットに篭ってる気さえしてくる、これが神か?
菊之助が東京に戻れるかどうかを試す公演シーンではお徳に何度かカットバックするが、遮蔽物が無残に彼と彼女を隔てる。お徳は途中で舞台に目を向けるのをやめ移動してしまうが、お徳には最早彼の芸も成長も嫌というほどわかってしまっているのだ、それをここではわざわざカットを割って見せつけ、2人を素直に結ぶことすら許さない。大成功のうちに下ろされた幕の後、別れを受け止めようと外に出たお徳をカメラは適度な距離を保ち優しく見守る……とも言われてはいるが、この作品のカメラは、我々鑑賞者の感情を煽るためにしか機能していない意地悪さを持っていると思う。外で悲しみに暮れる彼女の表情は映さず、同じショットの中見事な移動撮影ののちに偽りの笑顔を強調しているあたりが悪い意味で憎い。

確かに役者たちの声は聞こえづらいのに、すいかを切るときの音は絶品すぎる。ぜひ耳をすましてみてほしい。
第二次大戦下、「風と共に去りぬ」を鑑賞した日本軍が、あまりの完成度に腰を抜かして敗戦を確信したというエピソードを耳にしたことがある。だが、それと全く同じ年に製作されたこの映画を観た今なら、こう言えるだろう。「日本には、ミゾグチがいました」と。
これは大衆へと向けられた一級の娯楽作品でありながら、もはや時代錯誤なまでに先鋭的な芸術作品だ。たまげた。
ストーリーの軸はといえば、七光り歌舞伎役者・菊之助が大成するまで陰で支え続ける女房・お徳の「究極の内助の功」であり、この点で主役はもはやお徳。いや、もとい主役はお徳の"声"である。正直カメラも遠く画質も荒くて顔なんてほとんどよく見えなかった。だからこそ、鼓膜を振るわせる、透き通ったお徳のあの声の美しさが際立って仕方がなかった。
お徳の存在が浮き彫りにするのはおそらく、女性性の勝利だ。「大黒柱は男の務め、女は黙ってついてこい」というかつての封建社会的ルールに反して、「なーに言ってやがんだ、男が輝けるのは下から女が突き上げてやってるからじゃねえか」と言わんばかりである。強い女性の姿というのは、溝口映画における普遍的なテーマだったのね。
ワンシーン・ワンカットのテクニックは単なるひけらかしではなく、もちろんストーリーを雄弁に伝える為のもの。男女の悲哀には、やはりホロリとさせられてしまった。だがそれにしたって、なんてったって、ラスト1分のあの幕引きは、あのカッコよさは、なんだ。とにかく凄いものを観てしまった。なんだったんだ。
is

isの感想・評価

4.4
200%の愛、むせび泣く

ただし恋情ではなく、役者としての菊之助への信頼あってこその思慕

菊之助が東京に戻るきっかけになる舞台のシーンが素晴らしくて、これもお徳の献身あってこそとおもうと…

病床に臥せったお徳の報せで、菊五郎がいう「女房のとこへ行ってやんな」という台詞は餞なんだろな
非常に長回しだが画面の中に必ず何らかの動きがあり飽きない。後半の病床に伏しているお徳と菊之助が再会するシーンで、俯いてうちわで扇ぎ続ける男の手の動きを画面に入れてるとこ凄い。どんなに感動的な場面でも静止した画だと観客が飽きるのがわかってるんだろうなぁ。顔に寄って表情を撮らないとこもよい

物語は本当にシンプルで、映像はモノクロだし画質も音質も良くはない

なのに、だれることなく最後は前のめりになって観てしまったのは、やっぱり俳優と演出の妙なんだろうなぁという感じ。

主演の二人の演技には唸る
うまい。すごい。


個人的に気に入ったのは、まだ着物を普段着として着ていた頃の正しい日本人の所作が観られる点。
袖口に向けて扇子をあおったり、お辞儀をするとき手を前腿で停めたり。

聞き知ってはいたけれど、俳優が自然に取り入れていると「あぁ、こういうことなんだ!」思えた。

おそらく、同時代の他作品でも日本人特有の所作を観られるとは思うけれど、あまり日本のモノクロ映画を観たことがない私にとっては、映像として流れるようにそれらの所作を観られることはとても感慨深いものでした。
yadakor

yadakorの感想・評価

4.0
同時代のハリウッド作に比べてカメラワークが斬新に思える
手すりの向こうの地面から見たカットとか逆に上の階から会話を見下ろしたり、盗み見みたいなショットが多くて面白い めっちゃ動くし

意外と現代と言葉遣い変わらないことに気づいてだれでも感動すると思う(噛んでも撮り直さないのもウケる)

すこし長すぎかな、120分でいい

つか1939年ってもう昭和なんだな、どんだけ長いんだ昭和、、、
lag

lagの感想・評価

4.0
物語は明治。親の七光りと言われる歌舞伎役者の菊、その奉公人だったお徳。二人の悲恋。まっすぐで献身的なお徳に心打たれる。
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