残菊物語の作品情報・感想・評価

「残菊物語」に投稿された感想・評価

H

Hの感想・評価

3.4
会話のシーンでほとんど切り返しショット使用せず、長回しで人物たちの体をフレームに収める習慣に、監督の身体表現へのこだわりが見受けられる。喜怒哀楽と感情の移ろいを遮断しないことで、役者の全身を使った感情表現が生かされるためだろう。それはこの映画の舞台である歌舞伎にも通底する。観客において、歌舞伎はからだの動きをじっくりと見届けることによって成立する。この作品で人の顔がアップされるのは数か所しかないが、一番印象深いのは菊之助の起死回生の舞台を見つめるお徳の緊張した顔だ。このシーンでのお徳は、自身の緊張を張り詰めた顔によって最大限表現する。体は固まり動きはない。人物の動きを画面の基調としている作品の中で、このお徳の顔は際立つ。この顔が際立つのは、画面の作りが異なるからだけではなく、物語においても重要な局面であるからだ。お徳と菊之助の運命を分岐させ、喜びと悲しみを同時に生むシーンだからこそ、あのカットは許された。あのカットからお徳がお稲荷さんに祈るまでのくだりは、身体の動と静のメリハリがつけられたいいシーンである。和室の空間の狭さに苦心しているのが感じられもした。襖をあけて奥行きをだそうと試みていると思われる。映画における和室空間の開拓はそれからの時代に、溝口健二も含め様々な監督によって開拓されていったのであろう。
初溝口健二。哀しく儚い男と女の物語。長回しや横移動などの撮り方が今見ても全然古びてない。ラストのカットバックの切なさ。素晴らしすぎた。
そんなところワンカットにしなくてもいいのでは?ってところまで延々とワンカット。執念のような画作りから目が離せない。

歌舞伎の知識がないので舞台の場面に込められた意味がほとんどわからなかったのだが、何故か泣いてしまった。なんでだろう。

幼なじみ役の高田浩吉がブロマンス感たっぷり。女形の役者友だちで、私生活の場面でもあらゆる所作がしなやか。大変よろしゅうございました。
深夜、菊之助とお徳が劇中最初に言葉を交わす長ーい並行ドリーショットでもうヤラレタ

奈落の稲荷に祈るお徳のショットとかも超絶良い

室内のランプの光......!

個人的には名古屋で別れちゃうところまでで大満足
ひたすら健気。
道頓堀船乗り込みのお祭り騒ぎと、下宿先の静寂。
こんな興奮しながら映画館を出たのは『・ふ・た・り・ぼ・っ・ち・』、『蒲田行進曲』以来かもしれない。素晴らしかった。

このレビューはネタバレを含みます

溝口健司もこれで見たのは3作目。
いくつか見てまず思うのは、プロットの緻密さ、その精度だと思う。昨日見たブニュエルの『ブルジョワジーのひそかな楽しみ』は一連の流れをあらかじめ作っているのではなく、作りながらイメージを固定・修正してくということだった。こちらの映画だとプロットを一歩の踏み外しも許さない精密な作業をフィルムの上で展開しているように感じられる。
しかしあらすじ自体は単純で、自由な恋愛を認められない芸者の息子が家を追い出され、数年下積みを積んだ後、故郷の舞台へ返り咲く。あとは細かな肉付けをしていくという、分かりやすい脚本となっている。
そんな脚本で作られた映画がただで終わらないのが演技や撮影、肉付けの手法によるところが非常に大きい。DVDのインタビューでもあったが、ともすればメロドラマで終わりかねない脚本があそこまで真実味を持つのは溝口健二という人間の持つ感性によるものが大きいことは言うまでもない。具体的にそれがどこなのかということについてはうまいこと言語化できないわけだが。見る側のお勉強も欠かせない
ENDO

ENDOの感想・評価

4.2
水谷浩の美術と三木滋人の撮影に支えられて、縦横無尽に動き揺蕩う時間を味わう。至福。日本の憧憬に重なるメロドラマは映像の持つ時間軸を浮上させる。忘却の快感。ブツ切りのサブスクリプションによって日常が常に分割され続けている我々にとってその連続性と間は尊い。構図は遮蔽物によって登場人物の顔すら認識するのが困難でその分此方の窃視行為は物語との距離を作り出す。さめざめとした映画への参加に往時を馳せるのではなく、刺激に滅多打ちにされている現代人の麻痺してしまった感覚を癒すのだ。
うまる

うまるの感想・評価

4.1
ワンシーンワンカットが徹底されすぎて異常。
そのためなら電車の壁だってぶち抜く。
ずっと観たかった作品でやっと観れた。

主人公の尾上菊之助は、自分の演技そのものではなく、義父である5代目 尾上菊五郎の威光によって評価されていて、周りからお世辞を言われても気づかない。

ある日、義弟の乳母お徳に「遊ぶのはほどほどに、芸の修行に励んでください」と物申されたことから、2人は惹かれ合う。周囲から反対を受けるものの、菊之助は大阪へ行って芸を磨く決意をし、お徳も彼と一緒に旅に出る。

菊之助が「関の扉」の黒染を演じたあとに、お徳が菊之助から身を引いてしまうあたりから、お徳のそれまでの献身ぶりに疑いを持ってしまった。

なかなか結果の出ない可哀想な男に喝を入れて、「この人は私がいないと生きていけない」と思うことで自分に酔っている心持ちの女なんだろうと考えてしまった。

菊之助が「スター」としての称号を手に入れた暁にはもう困難を乗り越える必要はないし、演技で人を魅了できる完璧な菊之助を支えることには喜びなんか感じないのでは…なんて考えてしまったのだが…

「とっくに別れたわ。あんな男と一緒に居るの面白くなくなったのよ」の、お徳の一言に騙されたのは私のほうだった…!

お徳が病に倒れてしまう直前の大阪公演、「石橋」の菊之助の連獅子の舞が美しかった。
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