クシーくん

ミス・マープル/最も卑劣な殺人のクシーくんのレビュー・感想・評価

3.8
マーガレット・ラザフォード主演のミス・マープルシリーズ3作目。「マギンティ夫人は死んだ」を下敷きにしているが、前作に引き続き大幅に脚色。そもそも原作はポワロ物で、筋も登場人物も著しく異なるので、名義借りに近い。今回も陰惨な連続殺人を取り扱っているが、ラザフォードおばあちゃんが大活躍する明るいミステリーとサスペンスとしてのバランスが取れていて美しい。とはいえ、全体の構成がシリーズ作品どれも似通っているので、流石にややマンネリ。

冒頭、いきなり法廷から始まるのでクリスティ原作で法廷というとディートリッヒ主演の「情婦」を思い出す。元女優のマギンティ夫人殺しで下宿人が捕まり、誰の目から見ても有罪確実と思われ陪審員は満場一致で有罪評決…ミス・マープルを除いては。ここから陪審員の評決が淡々と描かれ十二人の怒れるイギリス人が始まる事は全く無く、舞台は法廷をさっさと離れる。
マープルが何故下宿人の男を無罪だと感じたか?というきっかけに関しては正直やや弱いが、出だしから安定して面白い。
マープルはまたしても相棒のストリンガー氏とタッグでマギンティ夫人宅に押し入り家宅捜索。新聞の切り抜きと劇団のパンフレットから、夫人が劇団の誰かを強請っていたのではないか?と推理し、件の劇団に役者として入団。一癖ある劇団員に迎え入れられ、犯人を捜査する中、やがて新たな殺人が巻き起こる…

劇団のオーディションでマープルは叙事詩を朗読。「予期せぬ出来事」でアカデミー助演女優賞を獲得していたラザフォードが三流劇団で詩を熱演して酷評されるという、なかなか皮肉な筋も笑える。
相変わらずストリンガーさんが可愛い。ランニング姿で颯爽と現れるもベンチに座ってる間に寒くなっちゃってミス・マープルのケープをひざ掛けに借りる、仲睦まじい老夫婦ぶり。潜入先で色目を使われ慌ててマープルに言い訳する所も萌え。
レギュラーメンバーのクラドック警部はシリーズを追うごとにコメディロールとしての側面が強くなる。今回はあまりにお粗末な無能警部ぶりだったが、事件解決の暁にはその功を認められ警部(Inspector)から主任警部(Chief Inspector)に昇進。良かったね。
ロン・ムーディが今回の食わせ者。胡散臭い劇団長役を好演。「オリバー!」のフェイギンを演じた人物とのことだが、ヒゲと変な訛りがなかったせいか全然気が付かなかった。前回、前々回とラストで求婚されてきたマープルだが、今回は愛の代わりにお金が欲しい。応酬するマープルのとどめの皮肉も痛烈。

今回は前半に尺を使いすぎたせいか、役者陣にはなかなか演技派が揃っていたにも関わらず、他の劇団員の描写が今一つおざなりだったのはやや残念。
後半以降のグダつきは他シリーズ作にも見られたが、今作が一番顕著に感じた。

マギンティ夫人の家に大量に残されていたパンフレットはいずれも"Murder She Said"。シリーズ第一作目、「夜行特急の殺人」の原題。こんな所でもセルフパロディ。しかしパロディや楽屋落ち的なネタが多いな。
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