吉田

時計じかけのオレンジの吉田のレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
4.2
何度観ようが毎回圧倒されてしまう怪作

作品内の狂気やとち狂った登場人物、飲み込みにくい結末などのポイントももちろんこの作品、そしてキューブリックの持ち味ではあるが、何より目を耳を脳を惹き付けるのはその芸術性の高さ
雨に唄えばを筆頭とする楽曲の豊かさは愚か、度々登場するシンメトリー的構図、レコードショップや邸宅などのデザイン性、配色の秀逸さ、そして衣装も身悶えする程に最高である
これもとち狂っていると言ってしまえばそれまでだが、そんな批評を蹴散らすほどにとにかく惹き込まれる魅力で満ち溢れている
性行為に明け暮れる様子を色気を全く無視してあれほどまでに滑稽に描ける発想力や、かと思えば普段であれば笑いのひとつでもこぼれおちそうなシーンを身の毛のよだつ恐怖のシーンに変えてしまう、計算しつくされた構成力には敬服せざるを得ない

こういった奇怪で理解し難いアーティスティックな作品は非常に穿った捉え方や妙な解釈をされがちであり、社会への批判であるとか、人々の闇を映し出すだとか、キューブリックが本当に作りたかった作品だとか多くの評価がついてまわる
どれも正解不正解など抜きにしてひとつの感想であるのだから批判する気はない
だが、この作品が「衝撃的で頭がおかしい狂った作品だから観てみて」と、ただ衝撃的であるというだけの理由で人に勧められてしまう世間は、表現の幅が狭まっている様子を体現していて、少し寂しく感じてしまう
「頭がおかしいからすき」「理解できないからこそすき」どれも否定する気はないし、芸術は理解できることを前提に置いているだなんて微塵も思わないが、どうしても首を傾げてしまうのだ

別段この作品が好きという訳でもないがたまに観たくなってしまうのは、絶望も希望も喜びも悲しみも何もかもが混在しているこの作品はどの時代にとっても前衛的であり、そのどうしようもない世界を俯瞰できている自分に安心できるからなのかもしれない
自分のコンディションによって感想も感情も変わるであろうこの作品を手放すことは二度とできないだろう



とまあ、こんな風に
時計仕掛けに限らず世界を穿ったように見ることなんて誰にでもできますよ
だからまあ私は、こういう作品の評価欄に蔓延る、ねじ曲がった見方をしたがる人達が大好きなんですよ、自分まだまだ観点が甘いなーとも思えるし
吉田

吉田