マクガフィン

ドラえもん のび太の魔界大冒険のマクガフィンのレビュー・感想・評価

4.7
もしもボックスによって作られたIF体験の魔法世界を舞台に冒険する物語。

もしもボックスで魔法が存在する世界を実現させて、使う前の現実世界はパラレルワールドに当たる設定が上手い。もしもボックスを使ったのび太と科学で作られたドラえもんとドラミの3名以外の静香・スネ夫・ジャイアンを含む全ての人が魔法世界の住人。

「もしも魔法が使えたら」、そんな安易な気持ちで魔法世界にしたら地球滅亡の危機に。冒頭、ドラえもんとのび太の石像が二人の前に忽然とあらわれ、翌日には姿を消した。石像は後半の伏線になっており、掴みは素晴らしく映画にのめり込む。この映画で伏線やパラレルワールドや時間設定の事を概念ではなく感覚で理解した作品。

ドラえもんとのび太の石像、時空を越えて追ってくるメジューサ、魔界星の人魚など子供には衝撃的なシーンが多数で、子供に媚ない演出と作風が抜群に良い。パラレルワールドを舞台設定として利用する場合は並行世界への描写が難しいが、もしもボックスで当てはめると全く違和感がなく、説得力が凄い。

この作品最大の見どころは、パラレルワールドがもたらす責任やその選択を描写していることであり、これらは映画ではあまり前例がないのでは。
もしもボックスで元の世界に戻そうとするが、さらわれ仲間がいる魔法世界がパラレルワールドという現実世界と無関係の世界になってしまうことが気がかりで躊躇い、究極の選択をするシーンを遊び心満載でコミカルに描かれていて秀逸。さらわれた仲間は現実世界ではなくて魔法世界の住人であることも重要。これはパラレルワールドに移動した責任を問うことで、不幸(になった)なパラレルワールドの責任を負うかの選択であり、人はそれをどこまで責任を引き受けられるのかという重厚なテーマでもある。そして、能動的な行動をすることによる、カタルシスや成長譚が素晴らしい。

ドラえもん映画シリーズでベスト作品で、30年以上前に、あり得るかもしれない世界を見事に描写したことと、パラレルワールドへの責任を問うことに感銘を受ける。