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妹の恋人のWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

妹の恋人(1993年製作の映画)
4.4
『ヘタレ野郎が男になるまで』


突如現れた異邦人の姿をした天使が、既存の人間関係に不思議な変化をもたらすパターンのひとつとして楽しい映画であることはもちろん、一人の中年男の成長物語としても爽やかな印象を残す90年代の忘れがたい一作である。

ジューン(メアリー・スチュアート・マスターソン)というたった一人の家族を手離して外の世界と接触することを恐れていたのは実はベニー(エイダン・クイン)の方であった。

「君は恐れている。僕には分かるんだ。その理由もね。」

そう喝破してサム(ジョニー・デップ)はベニーを緘黙(かんもく)させてしまう。
ベニーが、交通事故で両親を亡くしたことをきっかけに殻に閉じこもってしまった自分を、障害を抱える妹をケアするという大義を口実にして正当化しているだけのヘタレ男であることをサムは鋭く見抜いていた。

精神病棟に送り込まれたジューンを見舞いに訪れた兄ベニーに、ジューンが言い放つ。

"You need me to be sick."
(私に病気で居て欲しいんでしょ?)

ジューンもまた、ベニーが自分の障害を利用して大人を演じている臆病者であることを鋭く暴き出して見せる。
このシーンでのベニーのいっぱいに見開かれた透き通るような青い瞳が、自分の真実を目の当たりにした衝撃を如実に語っている。
漫画の如くガーン!という擬音が添えられていたらちょうどいいような、可笑しくて哀しい中年男の姿がそこにある。


要するにベニーは大人ぶった「ええカッコしい」のガキんちょだったのである。
男友達からの共感は得られても女はこのタイプの男にはイラッとするらしく、肝心なところでいつも女にフラれてしまう言い訳がましいヘタレ野郎なのである。

男ではあっても中性的なサムがベニーに対し辛辣で、彼の本質を突きつけて変化をもたらす天使役を担っているところがとてもリアルで面白い。


ジューンを手離すことを決意してついに生まれ変わったベニーがもう一度最初からやり直す初々しい恋の相手であるルーシーにはまっさらをイメージさせる純白の薔薇を、すでに熱々のカップルであるジューンとサムにはピンクの薔薇をプレゼントするエンディングにほっこりする。

今度こそ男になれよ、ベニー!
ジューンにもサムにも、そしてもちろんベニーにもエールを贈りたくなった。

↓ジューンとサムのラブシーンで流れる
Have a Little Faith In Me / John Hiatt
https://youtu.be/WgW4u6QbzPE
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