ボブおじさん

リップスティックのボブおじさんのレビュー・感想・評価

リップスティック(1976年製作の映画)
3.5
この頃の映画のレイティング(年齢制限)ってどうなっていたんだろう?

この映画は、いわゆるレイプリベンジムービーである。しかもレイプされた被害者の1人(主役の妹)は、明らかにローティーンであったはずだ。

にも関わらず、私はこの映画を小学生の時に劇場で観ている。特にこっそりと潜り込んだ記憶はないので、年齢制限などなかったのだろう。

映画の主題は当時から問題となっていたアメリカの同意なきセックスに対する法の無力。そしてそれに対する許されぬ私刑(個人の判断による超法規的裁き)である。

〝法の網目をかい潜る不埒な奴〟への〝超法規的裁き〟に対する観客の喝采は、古今東西人々の溜飲を下げてきた。アメリカでは「狼よさらば」のポール・カージーや「ダーティハリー」のハリー・キャラハン、日本なら藤枝梅安や中村主水。

特にアメリカでは強姦事件の裁判で被害者が勝つ見込みは、僅かに2パーセントだと言う。この映画の主人公も法の壁の前に涙を飲む。

更にあろうことか、犯人の毒牙は幼い妹にまで及ぶ。許し難い事実を目撃している観客は、主人公に感情移入し許されるはずのない法を超えた個人的な裁きを拍手喝采容認する。

ラストに生じたカタルシスを小学生ながら感じ取れたという事は、小学生が見てもいい映画だったということか?

主演があのアメリカが誇る文豪アーネスト・ヘミングウェイの孫のマーゴ・ヘミングウェイと実の妹マリエル・ヘミングウェイであったことも当時話題となった。

ラストの主人公の顔が今でも脳裏に焼き付いている。



〈余談ですが〉
書くべきか迷ったのだが、この映画についてその内容以上に忘れられない出来事がある。

この映画は小学6年生の時に同級生の友人と見に行った。衝撃的な内容と強烈なラストに自分の頭の整理がつかない状態で劇場を出た瞬間、友人が突然こう言ったのだ。

〝ええ女だったの〜〟

人は歳を重ねると昔のことを徐々に忘れていく。嫌な記憶を消して自分の過去を美化していく。

だから小学6年生は、ピュアで純粋で単純で……。そんなふうに思ったりしてしまう。

だが彼は、いや僕らはもう既にオスだった。今見てきたばかりの許し難い内容について憤りを覚えると同時に男としていい女を見ると興奮する、紛れもないオスだった。

だから私はそれ以降、小学6年生を見ても純真だなんて思わない。彼らはオスでありメスである。ただ、その感情を気づかれぬよう包み隠す手立てまでは、まだ身につけていないだけで。