うべどうろ

水俣 患者さんとその世界のうべどうろのレビュー・感想・評価

水俣 患者さんとその世界(1971年製作の映画)
4.3
 素晴らしいなぁ。なんという記録であるかという当然の感想をこえ、映像と音声の合わせ方、構成の妙、そして何より患者さんと土本の距離。その全てがこの傑作を生み出しているのだと、圧倒的に勉強になる。3時間近い長尺は全く退屈することはなくて、ただひたすら「患者さんとその世界」に引き込まれてしまう。
 土本は、かつてあるインタビューにこう答えて言った。「その人の目を見ていれば、その人の目の動きでね、世界がその人の目の動きにあるはずだ。世界なんか描かなくてもね、その人の目の輝きで世界がわかるということだってあるじゃないか」と。まさしく、そんな目が描かれていた。まさしく、その世界が描かれていた。これを傑作と言わず、どんなドキュメンタリーを傑作と呼ぶのだろうかと思うほど、ただただ圧巻のできだった。
 一つだけ、テレビ屋さんをする僕として、判断に迷う言葉があった。とてつもなく頭の良い水俣病の少年に、土本がインタビューをするシーン。その少年は麻痺した呂律で懸命に自らの考えを述べ立てる。そしてその母親や、「水俣病じゃなかったら漁師なんかにはもったいない」と愛を注ぐ完璧なシーケンス。その中で、土本は、少年の「東京はどんなとこ?」という質問に、「海が汚い」と答えている。これはどう解釈したらいいだろうか。「水俣病」は汚染された水の影響で発症する病気。その患者さんを前に、土本は「東京の海が汚い」と言った。この意味はなんだったのか。あるいは、その倫理的な基準を論じる必要はないのだろうか。個人的に、このインタビューこそが、土本と患者さんの距離を近くしているとも思えたし、その一方で、この言葉を僕なら投げかけられないなと思った、倫理的に。是非とも論じてみたい、そんな一言だった。
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