このレビューはネタバレを含みます
無知で純粋で独善的でファナティックな恋は、客観的に見ればあまりにも滑稽で情けないが、トリュフォーはそんなイザベル・アジャーニ扮するアデルをあまりに美しくフィルムに焼き付けた。
序盤トリュフォーはひたすら、彼女の顔のアップを、その白く美しい肌を強調するかのようなライティングで撮りまくる。
下宿の部屋ランプの灯りで手紙を書く顔、その手紙用の安紙を買うとき店主に向かってしゃべるときの顔、ピンソン中尉へ手紙を渡してもらいその時の様子を伺う顔など、彼への想いが募るときその真剣な眼差しを、トリュフォーは共感を寄せながらそのショットを重ねているように見える。
純粋で曇りのない強い想いは、正気と狂気の境界線をやすやすと乗り越えてしまう。
ピンソン中尉はもはや彼女など眼中になく、わざわざ海を渡ってやってきたアデルはむしろ、恐怖の対象とさえ見ている。
もはや彼が世界そのもののように思っているアデルは、そんな彼の態度に立ち向かう体力も精神的な強さも持ち合わせず、一気に破滅へと突き進む。
若くして狂気に突き進んだ彼女は、帰国後40年にわたる長い余生を、精神病院で過ごしたという。