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オルゴールのdaiyuukiのレビュー・感想・評価

オルゴール(1989年製作の映画)
4.3
白昼の銀座で神崎勇次(長渕剛)を襲った阿南連合の鉄砲玉・瀬川は逆に追いつめられて、子供連れの若い母親を刺した。
勇次はかつて阿南連合に入っていたが今は一匹狼。兄貴分だった阿南勝成(寺田農)も今は勇次を目の敵にしている。
勇次は服役中に生まれた顔も知らない一人息子・蓮のことが気がかりだったが、早苗(永島暎子)とはすでに離婚しており、また生涯子供には会わないことが条件になっていた。
勇次の妹・きよ(仙道敦子)は舎弟の翔(哀川翔)と愛し合っており、結婚も約束していた。そして気難しく一徹な勇次にとって二人だけがよき理解者であった。
しかし、勇次はある日阿南から蓮の写真を見せられて荒れ始める。きよはそんな兄を見かねて蓮に会わせたのだった。
勇次は蓮をジープでドライブに連れていき、父子水入らずの楽しい時間を送った。
阿南の勇次に対する嫌がらせはエスカレートし、きよと翔が連れ去られた。翔は阿南連合の組員たちになぶり殺しにされ、それを目の当たりにしたきよも記憶を失ってしまう。
勇次は日本刀を携え、知人の結婚式に出席中の阿南をトイレに追いつめ、斬り殺したのだった。
手錠をはめられてパトカーで移動中の勇治は、途中で蓮の姿を見つけて車を飛び降り、抱きあげてやるのだった。
「とんぼ」などで長渕剛と組んできた黒土三男の、劇場用映画初監督作品。
この映画の主軸になっているのは、一匹狼ヤクザ神崎勇次と息子蓮の親子愛である。自分の生き方を貫く中で周りを血に染めてしまう宿命を呪いやるせない思いを酒で散らしながら、それでもこんな自分に付いて来てくれる舎弟の翔や妹のきよや行き付けのアンティークショップのオーナーの無垢な信頼と愛のおかげでぎりぎり道を踏み外さないでいられる神崎勇次の孤独な生きざまを体現し切る長渕剛の熱演。
そして勇次の息子に、長渕の息子と同じ名前をつけるくらい、孤独な蓮に今まで注いであげられなかった分までありったけ愛情を注ぐ勇次の息子に対する愛に、長渕自身の息子に対する愛を思い入れて渾身の演技を見せているのが、子煩悩な長渕自身の素顔が見える。
勇次が、蓮と親子水入らずでドライブを楽しむシーンや、勇次と翔がバカをやって街で遊ぶシーンや、勇次と翔ときよが憎まれ口を叩きながら食事をするシーンは、黒土三男お得意のヒューマンな温かさが感じられる。
勇次と阿南の抗争は、描写が中途半端なので、勇次と蓮の親子愛にストーリーを絞った方が、良かったのではないかと思える。
長渕剛と黒土三男に、もう一度親子愛をメインにしたヒューマンドラマに挑戦して欲しいと、かなわない夢を見たくなるヤクザ映画。
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