物語の展開はもちろん、何がどう優れているとかは散々語られているので、今さらわたしが言うことなど何も存在しない古典。
映画に限らないが、フィクションに触れるときはいつも「鑑賞者(読み手)」と「製作者(書き手)」が天秤の上にあることを意識している。おもしろいものは、絶えず両者が左右に揺れている。均衡が保たれたままのフィクションは予定調和だし、製作者の皿がいつも重すぎて揺れずにいるならそれは鑑賞者が置いてけぼりになっている。
ヒッチコックの映画は、このバランスが飛び抜けていいと思う。鑑賞者とヒッチコック映画の間にあるものは常に不安定に揺れている。鑑賞者は登場人物より情報を多く持っているにも関わらず、とても不安だ。映画を観終わった後でもずっと不安定に揺れている。それがとてつもなくおもしろい理由だ。
