Ryoma

隠された記憶のRyomaのレビュー・感想・評価

隠された記憶(2005年製作の映画)
4.2
まず、音楽が流れない。感情を煽ってくる説明的な演出がない。まるで非現実の裂け目から雪崩れてきたような「不安=ビデオテープ」に侵され混乱する家族をドライに映し続ける画面が終始、背筋が凍るほど恐ろしい。
「不安」は主人公の男の幼少期の曖昧な記憶に遡る。「やましさ」を伴ったざらざらした記憶だ。男はいつも夢の中でその「記憶」に脅される。夢の中のシーンは常にひりひりと火照るような独特なタッチをたたえていて、それはまさにぼんやりとした「悪夢=不安=やましさ」の性質そのものだ。
この映画は結局「不安」が最後まで解明されない、永遠に謎が残る、果てしない恐ろしさがある。物語の定型を逸脱して私たちを未知の世界へ突き落としてくるのだ。実験的なフィクションでしか表現できない一般化されたメタファーとしての「不安」ではあるが、その「不安」は私たちの世界とシームレスに繋がっていて、その生々しい事実が、観終わったあともズキズキと痛い。
Ryoma

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